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植田千秋 准教授 退職記念講演: 磁石に反応しない物質の磁気活性

会場: 大阪大学豊中キャンパス 理学研究科J棟 南部陽一郎ホール: (キャンパスマップはこちら)

   講義終了後、希望者は理学部F棟402に移動して交流会(17時ごろまで)

講義後の集合写真

講義後の集合写真

これまでの講演

2020年度

発表者名: 久好 圭治

発表内容: 重力可変装置を用いたクレーター重力スケーリング則の実験的検証

概  要:

 クレーターの直径Dと天体表面重力geffの間には、D ∝ geff -0.25 の重力スケーリング則が成り立つと理論から示唆されているが、地上で重力を変化させることの技術的な困難から、実験的検証は十分ではない。重力スケーリング則を調べる過去の実験結果としては、NASAのAmes研究所(1977)が求めたD ∝ geff -0.165±0.005 や、MGLAB(2007)で得られたD ∝ geff 0.004±0.003 が知られているが、いずれも理論予測とは大きく異なっている。そこでクレーター直径と表面重力の間に成り立つ関係を調べることを目的とし、以下の実験を行なった。 カプセル内部の重力を制御するために、カプセルの自由落下を用いた微小重力発生装置と、アトウッドの滑車を利用した重力可変装置を制作した。この装置の重力継続時間は約0.5秒間であるが,カプセル内の重力を安定して調整できた。落下カプセル内には、天体表面のレゴリスを模擬した標的のガラスビーズ、2台の高速度カメラ、電動ガンをセットした。カプセルが落下すると、ガラスビーズに向けて自動的に発射された弾丸がその表面にクレーターを形成した。このクレーターの形成を高速度カメラで撮影した。この装置を用いて様々な重力下におけるクレーター形成を観察した結果、クレーターの直径Dと表面重力geffの関係は、D ∝ geff -0.246±0.009 で与えられ、理論に一致した重力スケーリング則が得られた。クレーターの直径と表面重力の関係を実験的に確認することができた。

重力可変装置についての詳細と現在検討中の問題点を報告する。

発表者名: 寺田 健太郎

発表内容: 月のクレーターに関する一考察

概  要:

 We investigate the formation age distribution of 59 lunar craters with fresh morphologies and diameters greater than approximately 20 km and first find that formation ages of 8 of 59 craters, including the Copernicus, coincided. Considering the radiometric age of ejecta of Copernicus crater and impact glass spherules from various Apollo landing sites, we conclude that sporadic meteoroid bombardment occurred across the whole Moon around 800 Ma.

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2019年度

発表者名: 足立 裕美子

発表内容: 微量水の同位体計測:標準試料を用いた測定

概  要:

 月表面に存在する微量水の同位体を計測することによって、水の起源や挙動を知ることができる。そのために探査機搭載可能なその場観測可能なレーザー同位体吸収分光装置の開発が、急務となっている。

 TDLAS(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy)は、光学セルの両端に凹面鏡を置いて、入射した赤外レーザー光を多重反射させることによって内部気体による光の吸収を計測する装置で、波長掃引を行うことで同位体吸収スペクトルを得ることができる。この手法はCRDS法(Cavity Ring Down Spectroscopy)に比べて、光学アラインメントのずれに対する許容量が大きいメリットがある。測定では2.7μm帯のレーザーを用いて吸収強度スペクトルを算出する。真空セルの共振器長は37.5cm、光学距離は反射31回で1.16mとなった。

 研究では既存の装置の改造をし、また同位体濃度既知の標準水6種類を準備してH, Dの同位体の吸収ピークを測定し、δ値と吸光度の相関を見た。D, Oの濃度はD:-188.8~479.3‰, O: -27.52~—11.03‰でDは大きく濃度を変えた。発表では装置の説明、計測結果と実験した内容、今後の課題について述べる。

発表者名: 岩崎 かな子

発表内容: 2次中性粒子質量分析計を用いたシャコガイの微量元素分析

概  要:

 古気候学は、近代的な気象観測が行われていなかった過去の気候を復元する学問である。そのサンプルとして、シャコガイがしばしば用いられている。シャコガイは、共生藻が行う光合成からエネルギーを得て成長し、貝殻に日輪・年輪の成長輪を形成する。そのため、成長軸に沿って微量元素の測定を行うことで、日ごと年ごとの海洋環境を再現できると考えられている。特に、過去の日射量の指標としてSr/Ca比が用いられている。Hori et al 2015が行った2次イオン質量分析計(SIMS)を用いた測定では、約5000年前の日射量変動がシャコガイの貝殻のSr/Ca比から求められることがわかっている。本研究では、同じシャコガイのサンプルに対し、2次中性粒子質量分析計を適用し、より空間分解能の高い分析を試みた。この目的のため、新しく開発したパルスジェネレーターを組み込み、SrとCaの測定条件をスイッチングすることで同時に測定を行った。発表では、その進捗を報告する。

発表者名: 植田 晃平

発表内容: ERG衛星搭載用超高エネルギー電子計測器XEPの較正

概  要:

 超高エネルギー電子計測器XEPは、2016年12月に打ち上げられたジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG衛星)に搭載されているプラズマ粒子観測装置の1つである。XEPは半導体検出器(SSD)5枚とシンチレータ(GSO)で構成され、400keV〜20MeVの範囲で電子のエネルギー分布を計測することができる。XEPの構造上、単エネルギー電子の検出スペクトルは広がりを持ち、複数のエネルギーチャンネルのカウントに寄与する。軌道上で検出されるスペクトルは異なるエネルギーの電子からのスペクトルを重ね合わせたものであるため、あるエネルギーにおけるチャンネルカウントと実際に入射した電子数は一致しない。より正確な入射フラックスを知るためには、入射電子のエネルギーと各チャンネルに対する寄与の関係を表す応答関数行列を求める必要がある。本研究では、粒子反応シミュレータプログラムGeant4を使用することで、入射電子のエネルギーに対して各チャンネルカウントはどのような寄与を受けるのかを求め、SSD領域における応答関数行列を得ることができた。

発表者名: 松本 匡能

発表内容: レーザーポストイオン化SNMSを用いたサブミクロン局所U-Pb年代分析

概  要:

 地球外物質の局所同位体年代分析は、太陽系の形成と進化を解明する重要な手法である。また、多くの地球外物質は2次的変性作用を受けているため、ウランの2つの放射壊変系から形成年代と変成年代を同時に測定できるU-Pb年代分析が有効である。しかし岩石中にUやPbといった微量元素はppmオーダーでしか存在しないため、SIMSなどの従来の質量分析装置では、3μm以下の小さな鉱物粒における精密なU-Pb年代分析が困難であった。惑星科学グループが所有するMULTUM-SNMSは、レーザーポストイオン化技術を導入したことにより、サブミクロン領域からSIMSと同程度の情報を得ることが可能である。以上から、MULTUM-SNMSはサブミクロンサイズの鉱物粒に対する局所U-Pb年代分析が期待されている。本発表では、ポストイオン化MULTUM-SNMSの1μmスケールでのPb-Pb年代分析の現状と、U-Pb年代分析へ向けた今後の展望について報告する。

発表者名: 渡邊 宏海

発表内容: ルナ16号試料L1613のU-Pb年代とキャラクタリゼーション

概  要:

 月の進化を議論する上で月の表面から持ち帰られたアポロ・ルナ試料は重要な情報を有している。微細な粒及び粉末の混合物であるレゴリス試料は数十億年にわたる連続的な隕石の衝突による玄武岩と斜長岩の崩壊の結果、月の表面を覆っていると考えられている。そのため、レゴリスの年代学においては、一つ一つの粒が異なる起源を有していることを考慮する必要がある。

 本研究では、月面のMare Foecunditatiから旧ソ連の無人探査機ルナ16号が回収したレゴリス試料L1613について、SEM-EDSを用いた元素マッピングを行い、試料のキャラクタリゼーションを行った。試料内に見られる輝石に対して定量分析を行うことで個々の粒子に対して起源の同定を行い、その結果、このフラクションはLow-Ti玄武岩とVeryLow-Ti玄武岩起源の粒が混在しており、わずかに斜長岩質起源成分が混ざっていることが明らかになった。また、見つかったリン酸鉱物に対してをNanoSIMSを用いた局所分析を行い、そのU-Pb年代を求めた。その結果、結晶化年代が44億年と36億年の粒が混在していることが分かった。また、44億年の結晶化年代が得られた粒の組成を分析することで、その粒が高地起源のMg-Suiteであることが分かった。

 今回の発表では 輝石の組成によるキャラクタリゼーションの結果を報告する。

発表者名: 松崎 太郎

発表内容: 準天頂衛星「みちびき」による電離層TECの解析と評価

概  要:

 国土地理院はGEONET(GNSS連続観測システム)で得られた電子基準点データ観測データや解析結果等を提供しており、2種類の周波数(f1 =1.575[GHz]、f2 = 1.228[GHz])のマイクロ波の情報を得ることができる。衛星から送信されるマイクロ波は主に250〜400kmを中心に存在する電離層を通過する際に遅延を起こし、その量は周波数の自乗に反比例することから2波の擬似距離遅延差[m]、搬送波位相遅延差[m]より電離層内の視線上の総電子数(TEC)を求めることができる。TECは主に磁気嵐や大規模移動性擾乱などの太陽活動によって異常を起こすことがあるが、Mw8.0を超えるような多くの大地震の直前約40〜50分前に震源上空に局所的な正の異常を起こしていることが報告されており(Heki, 2018)、地震活動とTEC異常との相関が示唆されている。

 日本の準天頂衛星システム(QZSS)は準天頂軌道を持つ衛星(PRN 01,02,03)と静止軌道を持つ衛星(PRN 07)の四機で構成されており、特にPRN 07は同じ地点かつ同じ衛星でのTEC変動が連続的に観測できる点で、周回軌道を持つ他のGNSS衛星と比べ、一地点のTECの時間変化を解析することに適している。

 そこで、GEONETの提供するQZSSの生データからVTEC(垂直成分に換算したTEC)を計算するソフトウェアを作成し、その性能を評価するために磁気嵐発生時期である2019年8月5日を含む、7月28日〜8月24日におけるVTEC(電子基準点は稚内、八戸、鯖江、鹿屋、伊良部の5地点)を計算した。

 また、2019年11月8日に桜島で発生した噴火による電離層の擾乱を観測するために、同様の手法でQZSS三地点(高森、串間、宮崎)とGPS四地点(笠利、瀬戸内、和泊、国頭)のVTECを計算し、それぞれの手法での解析の比較を行った。

発表者名: 室田 雄太

発表内容: 負ミューオンビームを用いた三次元元素組成分析装置の開発

概  要:

 物質の透過能力が高い素粒子であるミューオンを用いて、様々な試料を分析する研究が近年進められている。負ミューオンビームを用いた実験では、試料の元素組成を、試料表面からの深さを選択して非破壊で分析することが可能であり、考古学資料や隕石を科学的に分析する有用な手段としての利用が期待されている。

 しかし、今までの手法ではビーム径内に存在する試料の均質的な情報しか得ることが出来ず、数cmサイズの隕石試料を用いた場合は全岩の分析に限られていた。そこで現在、試料手前にミューオンの飛行奇跡を観測するためのガスチェンバーを設置し、試料内の三次元元素組成マッピングを非破壊で作成できる測定装置の開発が進められている。

 この装置は、3月にラザフォード研究所(RAL)でゲルマニウムサプレッサーと共に実験セットアップに組みこられる予定であり、昨年の12月には京都大学複合原子力科学研究所にて陽子ビームを使った動作確認・性能評価試験を行った。今回の発表では、12月の試験の実施内容とその後の解析についての進捗と、RAL実験についての展望を報告する。

発表者名: 山口 若奈

発表内容: 磁気並進運動を用いた揮発性固体の分離・識別装置の開発

概  要:

 近年、ネオジム磁石の磁気力により、異なる粒子の集合体を微小重力空間で並進させ、物質の種類ごとの集団に分離する原理が実証された。自然界に存在する多くの物質は、各々固有の反磁性磁化率を有しており、この差異により分離や同定が可能になる。これまで磁気並進の実験は主に室温条件で検証されてきたが、自然界には地球上の寒冷地や太陽系外縁部など、揮発性の低温固体が多数を占める領域が多い。そこで、これらの領域で固体粒子の存在比を容易に計測する新たな手段として、上記の磁気分離の原理が利用できないかと考え、その可能性を探るために装置開発を行っている。前回のセミナーでは、エタン粒子(融点90K)の磁気並進の観測結果を報告した。今回は、メタン(融点91K)の磁気並進の観測も目指して試料のセットアップの改良を行ったので、その進捗を報告する。

発表者名: 津田 洸一郎

発表内容: ERG衛星の観測に基づく、磁気圏N+の観測研究

概  要:

 N+は磁気嵐中の磁気圏において、H+、O+に次ぐ3番目に重要なイオンである[Christon et al., 2002]。また、地球電離圏からの電離大気流出のトレーサーとしての役割を持つ。しかし、N+とO+の質量電荷比が非常に近く、両者を分別するのが難しいために、過去の観測ではH+、O+に関する報告は多いのだが、これまで、磁気圏中のN+の観測報告は少ない。[Christon et al.(2002); Lui at al.(2005)]

 ERG衛星には、Medium-energy particle experiments-ion mass analyzer(MEP-i)が搭載されている。MEP-iは、静電分析部とTOF(Time-of-flight)計測部、固体検出部からなる質量分析計で、質量電荷比ごとのカウント数を測ることができる。本研究では、MEP-iの測定で得られた、TOFスペクトルデータを解析し、N+の磁気活動度や太陽活動度における変動を調べたいと考えている。今回、2017年7月16~18日に起きた磁気嵐(Dst_min=-72nT)中のTOFスペクトルを解析し、ガウシアンでのフィッティングを用いて、O+とN+のピークの分離を試みたので、その結果について報告する。

発表者名: 村山 純平

発表内容: 月面微量水の同位体測定へ向けたCRDS(Cavity Ring-Down Spectroscopy)測定装置の開発

概  要:

 月面における水の存在は、月探査において、かねてからその確証が熱望されるテーマであり、近年では資源として利用できる存在量かどうかという議論も盛んになされている。一方、月面水が存在する場合、その起源や挙動など学的見地を明らかにすることもまた重要である。そのためには、月面で水を採取し、その同位体測定を行う必要がある。そのための候補の一つとして、我々はCRDS(Cavity Ring-down Spectroscopy)に可能性があると考えている。

 CRDSとは、赤外半導体レーザーを用い、その波長を試料の同位体吸収線に同調させるとともに、超高反射鏡を用いた光トラップ共振器で共振させ、それから得られた吸収緩和の時間変化から水同位体の定量を行う分光法である。この手法により、数十cmという装置筐体ながら約数kmという長い有効光路長を得ることができ、小型高感度という宇宙機搭載に適した性能を発揮することができる。また、吸収緩和の時間変化を見るという性質により、共振器からの透過光を観測するだけで良いというのもこの測定手法の利点の一つである。

 現在、我々は衛星搭載用装置の前段階として、実験室的環境下のCRDSを用いて、レーザー波長の掃引による水蒸気吸収スペクトルの測定を行っており、今回はその進捗をご報告させていただく予定である。今後、温度変化や圧力変化等に対する安定性を改善することで、月面水の起源を同定するための水同位体比の要求精度δD = ±100‰、δO17,18 = ±1‰の達成を試みるとともに、CRDSによる水同位体比測定のノウハウ獲得を目指す。

発表者名: 出口 雅樹

発表内容: イオンエネルギー質量分析器MSAの質量分析部の開発

概  要:

 イオンエネルギー質量分析器(MSA:Mars moon mass Spectrum Analyzer)は、火星衛星からのサンプルリターンを計画している火星衛星探査計画(MMX:Martian Moons eXploration)に搭載され、火星・Phobos・Diemos・太陽風起源のイオンを計測することで、火星衛星周辺のイオン環境を明らかにする観測機器である。ミッションにおける目標を達成するために、MSAは主に火星衛星周回軌道において火星散逸イオンのフラックスを組成ごとに測定することが求められ、その時に必要となる質量分解能はm/Δm=100程度である。

 MSAは上部のエネルギーを計測する静電分析部と、下部の飛行時間の計測による質量分析部で構成されている。静電分析部でエネルギーが判明しているイオンは、質量分析部に入る直前に高電圧が印加されたカーボンフォイルに加速され衝突することで、電荷状態が変化する。また、質量分析部の内部には線形電場(LEF:Linear Electric Field)が構成されており、これによって反射されたイオンは中性粒子や陰イオンと比較して高い質量分解能で測定することができる。 今回のセミナーでは実験の報告と、今後の課題について発表する。

発表者名: 足立 裕美子

発表内容: 月面微量水の同位体計測:標準試料を用いた測定

概  要:

 月表面に存在する微量水の同位体を計測することによって、水の起源や挙動を知ることができる。そのために探査機搭載可能なその場観測可能なレーザー同位体吸収分光装置の開発が、急務となっている。

 TDLAS (Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy) は、光学セルの両端に凹面鏡を置いて、入射した赤外レーザー光を多重反射させることによって内部気体による光の吸収を計測する装置で、波長掃引を行うことで同位体吸収スペクトルを得ることができる。この手法はCRDS法 (Cavity Ring Down Spectroscopy) に比べて、光学アラインメントのずれに対する許容量が大きいメリットがある。測定においては、2.7μm帯のレーザーを用いて吸収強度スペクトルを算出する。

 今回、同位体濃度既知の標準水6種類を準備して、H,Dの同位体の吸収ピークを測定し、また水の残留に伴う装置のメモリー効果の影響の測定を温度を変えながら行った。セミナーでは吸収スペクトルの計測結果と実験した内容、また、今後の課題について述べる。

発表者名: 岩﨑 かな子

発表内容: シャコ貝を用いた古気候復元について

概  要:

 古気候学は、近代的な気象観測が行われる以前の過去の気候を復元する学問である。過去の気候を知ることは地球温暖化や未来の気候変動を予測するにあたり、大変重要である。今回のセミナーでは、シャコ貝をサンプルとした過去の日射量復元について、卒業研究の中間発表を行う。シャコ貝は日輪・年輪を形成しながら成長し、この成長軸に沿ってSr/Ca比を測定することで、約5000年前の日射量を3時間の分解能で計測できることがわかっている。卒業研究では、より精度の良い質量分析器を用いて、時間分解能を高めたデータを得ることを目標としている。

発表者名: 植田 晃平

発表内容: Geant4によるシミュレーションを用いた超高エネルギー電子観測装置XEPの較正

概  要:

 超高エネルギー電子観測装置XEPは、2016年12月に打ち上げられたジオスペース探査衛星「あらせ」に搭載されているプラズマ粒子観測装置の1つである。XEPは5枚の半導体検出器(SSD)とシンチレータ(GSO)で構成され、400keV~20MeVの電子を計測している。

 検出器手前に存在するAlシールドやシリンダー等の影響や高エネルギー特有の物理現象により、XEPで検出されるスペクトルは単純な線スペクトルにならない。そこで、シミュレーション結果と実験結果を基に、元の電子エネルギー分布から検出スペクトルに変換している応答関数を求める必要がある。また、検出器に依存するカウント数から自然界の物理量である微分フラックスに変換するために、検出器の幾何学的な性能を表すg-factorも同様にして求めておくことが必要となる。

 本研究では、粒子反応シミュレータプログラムGeant4を用いて、より高精度な応答関数とg-factorを求めることを目標としている。今回の発表ではその手法の詳細と進捗について報告する。

発表者名: 松本 匡能

発表内容: レーザーポストイオン化SNMSを用いたジルコンのサブミクロン局所Pb-Pb年代分析

概  要:

 太陽系の形成史を紐解くにあたり、放射壊変系を用いた地球外物質の年代分析は重要な役割を占めてきた。なかでも238Uと235Uの2種類の壊変系を用いるU-Pb年代分析は、鉱物が凝縮した形成年代と、熱的または水質的なショックを受けた変成年代を同時に測定できる特徴を持っており、太陽系年代学に大きく寄与している。

 そのU-Pb年代測定法として広く使われているのが、SIMS (Secondary Ion Mass Spectrometry) である。これは試料表面の微小領域を一次イオンビームで破砕し、発生させた二次イオンを検出する測定手法で、試料全体の鉱物学的情報を保持したまま分析を行える点に優れている。反面、バルク分析に比べて検出するイオンの絶対量が少なくなり、またイオン化効率が1%程度と低いため試料のロスが大きい欠点を持つ。

 惑星科学グループが所有するMULTUM-SNMSは、スパッタされた二次中性粒子をレーザーポストイオン化することによりSIMSより高いイオン化効率を実現している。そのため従来のSIMSと同程度のイオン検出効率で、より小さいサブミクロンサイズの試料の測定が可能となり、これまで分析困難であった細粒の鉱物からU-Pb年代情報が得られると期待されている。

 本発表ではMULTUM-SNMSのU-Pb年代分析に向けた性能評価のため、ジルコンの標準試料91500ジルコンのPb含有量を測定した結果、およびその点からU-Pb年代分析の実現に向けた展望について議論する。

発表者名: 河井 洋輔

発表内容: Improved Quantitative Dynamic Range of Time-of-Flight Mass Spectrometry by Simultaneously Waveform Averaging and Ion-Counting Data Acquisition

概  要:

 飛行時間型の質量分析におけるデータ取得法には、"波形積算"と"イオンカウンティング"の2つの方法がある。波形積算は、1トリガー毎に検出器から出力されるイオン信号波形を単純積算する方法で、1トリガーで大量にやってくるイオン信号を処理することができる。その一方で、ノイズも同時に積算するため、存在量の少ないイオンは検出・定量が難しい。イオンカウンティングは、ノイズの影響を無くすことができ、低濃度の試料の分析には向いているが、同時に2つ以上のイオンがやってくると信号を処理することができず、濃度差の大きい試料を分析するのには向いていない。

 これら2つの方法の短所を補い、高いダイナミックレンジで定量性の高い質量スペクトルを得るため、"波形積算"と"イオンカウンティング"を組み合わせた新しいデータ取得法を開発し、検討を行った。セミナーでは、研究結果をまとめた以下の2つの論文に基づき発表を行う。


[1] Y. Kawai, et al., J. Am. Soc. Mass Spectrom. 29, 1403-1407 (2018).

[2] Y. Kawai, et al., Nucl. Instr. and Meth. A 942, 162427 (2019).

発表者名: 渡邊 宏海

発表内容: ルナ16号試料L1613のU-Pb年代とキャラクタリゼーション

概  要:

 月の進化を議論する上で月の表面から持ち帰られたアポロ・ルナ試料は重要な情報を有している。微細な粒及び粉末の混合物であるレゴリス試料は数十億年にわたる連続的な隕石の衝突による玄武岩と斜長岩の崩壊の結果、月の表面を覆っていると考えられている。そのため、レゴリスの年代学においては、一つ一つの粒が異なる起源を有していることを考慮する必要がある。

 本研究では、月面のMare Foecunditatiから旧ソ連の無人探査機ルナ16号が回収したレゴリス試料L1613について、SEM-EDSを用いた元素マッピングを行い、試料のキャラクタリゼーションを行った。試料内に見られる輝石に対して定量分析を行うことで個々の粒子に対して起源の同定を行い、その結果、このフラクションはLow-Ti玄武岩とVeryLow-Ti玄武岩起源の粒が混在しており、わずかに斜長岩質起源成分が混ざっていることが明らかになった。また、見つかったリン酸鉱物に対してをNanoSIMSを用いた局所分析を行い、そのU-Pb年代を求めた。その結果、結晶化年代が44億年と36億年の粒が混在していることが分かった。また、44億年の結晶化年代が得られた粒の組成を分析することで、その粒が高地起源のMg-Suiteであることが分かった。

 今回の発表では新たにNanoSIMSでU-Pb分析を行ったPhosphateの年代とその起源について報告する。

発表者名: 松崎 太郎

発表内容: GEONETを用いた電離層TECの解析

概  要:

 国土地理院はGEONET(GNSS連続観測システム)で得られた電子基準点観測データや解析結果等を提供しており、2種類の周波数(f1=1.575[GHz]、f2=1.228[GHz])のマイクロ波の情報を得ることができる。衛星から送信されるマイクロ波は主に250〜400kmを中心に存在する電離層を通過する際に遅延を起こし、その量は周波数の自乗に反比例することから二波の擬似距離遅延差[m]、搬送波位相遅延差[m]より電離層内の視線上の総電子数(TEC)を求めることができる。TECは主に磁気嵐や大規模移動性擾乱などの太陽活動によって異常を起こすことがあるが、Mw8.0を超えるような多くの大地震の直前約40〜50分前に震源上空に局所的な正の異常を起こしていることが報告されており(Heki, 2018)、地震活動とTEC異常との相関が示唆されている。日本の準天頂衛星システム(QZSS)は準天頂軌道を持つ衛星(PRN 01,02,03)と静止軌道を持つ衛星(PRN 07)の四機で構成されており、特にPRN 07は同じ地点かつ同じ衛星でのTEC変動が連続的に観測できる点で、一地点のTECの時間変化を解析することに適していると考えている。そこで、GEONETの提供するQZSSの生データからVTEC(垂直成分に換算したTEC)を計算するソフトウェアを作成し、その性能を評価するために2019年8月18日〜24日(太陽活動平穏期)と2019年8月4日〜8月10日(磁気嵐が発生していた時期)におけるVTECを計算した。本セミナーでは、上記のVTEC変動のグラフを示し、QZSS-TECと磁気嵐の関連性について議論する。また、GPSの生データを用いた同日・同地点のVTEC変動データを示し、双方の比較・評価も行いたい。

発表者名: 室田 雄太

発表内容: 負ミューオンビームを用いた三次元元素組成分析装置の開発

概  要:

 物質の透過能力が高い素粒子であるミューオンを用いて、様々な試料を分析する研究が近年進められている。負ミューオンビームを用いた実験では、試料の元素組成を、試料表面からの深さを選択して非破壊で分析することが可能であり、考古学資料や隕石を科学的に分析する有用な手段としての利用が期待されている。しかし、今までの手法ではビーム径内に存在する試料の均質的な情報しか得ることが出来ず、数cmサイズの隕石試料を用いた場合は全岩の分析に限られていた。そこで現在、試料手前にミューオンの飛行奇跡を観測するためのガスチェンバーを設置し、試料内の三次元元素組成マッピングを非破壊で作成できる測定装置の開発が進められている。今回の発表ではその装置の概要と、今後の開発の展望について報告を行う。

発表者名: 山口 若奈

発表内容: 磁気並進運動を用いた揮発性固体の分離・識別装置の開発

概  要:

 近年、ネオジム磁石の磁気力により、異なる粒子の集合体を微小重力空間で並進させ、物質の種類ごとの集団に分離する原理が実証された。自然界に存在する多くの物質は、各々固有の反磁性磁化率を有しており、この差異により分離や同定が可能になる。これまで磁気並進の実験は主に室温条件で検証されてきたが、自然界には地球上の寒冷地や太陽系外縁部など、揮発性の低温固体が多数を占める領域が多い。そこで、これらの領域で固体粒子の存在比を容易に計測する新たな手段として、上記の磁気分離の原理が利用できないかと考え、その可能性を探るために装置開発を行っている。今回、エタン粒子(融点90K)の磁気並進の観測における課題とその対策の進捗を報告する。これと並行して、T=100~77Kにおける超伝導体材料のχ値を、単一粒子の磁気並進から検出する方法の確立を進めている。その意義と、実験の経過報告も併せて行う予定である。

発表者名: 津田 洸一郎

発表内容: ERG衛星の観測に基づく、磁気圏N+の観測研究

概  要:

 N+は磁気嵐中の磁気圏において、H+、O+に次ぐ3番目に重要なイオンである[Christon et al., 2002]。また、地球電離圏からの電離大気流出のトレーサーとしての役割を持つ。しかし、N+とO+の質量電荷比が非常に近く、両者を分別するのが難しいために、過去の観測ではH+、O+に関する報告は多いのだが、これまで、磁気圏中のN+の観測報告は少ない。[Christon et al.(2002); Lui at al.(2005)]

 ERG衛星には、Medium-energy particle experiments-ion mass analyzer(MEP-i)が搭載されている。MEP-iは、静電分析部とTOF (Time-of-flight)計測部、固体検出部からなる質量分析計で、質量電荷比ごとのカウント数を測ることができる。本研究では、MEP-iの測定で得られた、TOFスペクトルデータを解析し、N+の磁気活動度や太陽活動度における変動を調べたいと考えている。今回、2017年7月16~18日に起きた磁気嵐(Dst_min=-72nT)中のTOFスペクトルを解析し、ガウシアンでのフィッティングを用いて、O+とN+のピークの分離を試みたので、その結果について報告する。

発表者名: 村山 純平

発表内容: 月面微量水の同位体測定へ向けたCRDS(Cavity Ring-Down Spectroscopy)測定装置の開発

概  要:

 月面における水の存在は、月探査において、かねてからその確証が熱望されるテーマであり、近年では資源として利用できる存在量かどうかという議論も盛んになされている。一方、月面水が存在する場合、その起源や挙動など学的見地を明らかにすることもまた重要である。そのためには、月面で水を採取し、その同位体測定を行う必要がある。そのための候補の一つとして、我々はCRDS(Cavity Ring-down Spectroscopy)に可能性があると考えている。

 CRDSとは、赤外半導体レーザーを用い、その波長を試料の同位体吸収線に同調させるとともに、超高反射鏡を用いた光トラップ共振器で共振させ、それから得られた吸収緩和の時間変化から水同位体の定量を行う分光法である。この手法により、数十cmという装置筐体ながら約数kmという長い有効光路長を得ることができ、小型高感度という宇宙機搭載に適した性能を発揮することができる。また、吸収緩和の時間変化を見るという性質により、共振器からの透過光を観測するだけで良いというのもこの測定手法の利点の一つである。

 現在、我々は衛星搭載用装置の前段階として、実験室的環境下のCRDSを用いて、レーザー波長の掃引による水蒸気吸収スペクトルの測定を行っており、今回はその進捗をご報告させていただく予定である。今後、温度変化や圧力変化等に対する安定性を改善することで、月面水の起源を同定するための水同位体比の要求精度δD = ±100‰、δO17,18 = ±1‰の達成を試みるとともに、CRDSによる水同位体比測定のノウハウ獲得を目指す。

発表者名: 出口 雅樹

発表内容: イオンエネルギー質量分析器MSAの質量分析部の開発

概  要:

 イオンエネルギー質量分析器(MSA : Mars moon mass Spectrum Analyzer)は、火星衛星からのサンプルリターンを計画している火星衛星探査計画(MMX : Martian Moons eXploration)に搭載され、火星・Phobos・Diemos・太陽風起源のイオンを計測することで、火星衛星周辺のイオン環境を明らかにする観測機器である。ミッションにおける目標を達成するために、MSAは主に火星衛星周回軌道においてイオンのフラックスを組成ごとに測定することが求められ、その時に必要となる質量分解能はm/Δm=100程度である。

 MSAは上部のエネルギーを計測する静電分析部と、下部の飛行時間の計測による質量分析部で構成されている。静電分析部でエネルギーが判明しているイオンは、質量分析部に入る直前に高電圧が印加されたカーボンフォイルに加速され衝突することで、電荷状態が変化する。また、質量分析部の内部には線形電場(LEF : Linear Electric Field)が構成されており、これによって反射されたイオンは中性粒子や陰イオンと比較して高い質量分解能で測定することができる。

 入射イオンとカーボンフォイルとの相互作用について、入射イオン・入射角度・入射エネルギーを変化させてTRIMを用いて計算を行った。得られたデータを用いて各条件での数値モデルTOFスペクトルを計算した。また、質量分析部下部に設置するアノードの表面パターンの設計をCADで設計した。今回のセミナーでは以上についての発表を行う。

発表者名: 山中 千博

発表内容: 地球上の非定常電荷が電離層に及ぼす影響の研究

概  要:

 2011年東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0)において、地震発生40分前から震源上空の電離層総電子数(TEC:Total Electron Content)の増大があったことが北大の日置により報告された1)。その後、日置は1994年から2015年までのM8級以上の地震について、磁気嵐の時期を除いた過去18回のすべての例で 地震発生直前数十分以内にこのようなTEC異常(HEKI TEC)があったことを示した2-4)。現在、この現象を説明できる物理モデルはまだ存在しておらず、根拠となるモデルの構築が求められている。

 本研究では、簡単のため平面地球体としてプラズマの成分は電子と水素のみ、擾乱のない静かな電離層を仮定した電磁場3次元・プラズマ流体2次元のシミュレーションを行った。地球磁場はBearth = 25000 nTとして、電荷量が単調に増加する地球上の分極電荷を仮定し、非定常分極電荷が作る電磁場の電離層への影響を評価した。

 過去の地震前の TEC異常に関する先行研究としては、Kuoらの電流注入モデル計算5) があり、またKerryによる地上電場の電離層影響モデル6) や小山による大気重力波と電離層東西電場のカップルモデル7)があるが、実際に外部電場のもとで、数100km立方の空間と数十分の時間幅でシミュレーションを実施したのは本研究が初めてである。シミュレーションは、日置の電離層トモグラフィー観測とよく一致する結果を得ており、現在その精査を行っているところである。


参考文献

1) K. Heki, Geophys. Res. Lett., 38, L17312 (2011).

2) K. Heki and Y. Enomoto, J. Geophys. Res. Space Phys., 120, 7006-7020 (2015).

3) K. Heki, Parity, 33, No.2. (in Japanese) (2018).

4) He, L. and K. Heki, J. Geophys. Res. Space Phys., 122, 8659-8678 (2017).

5) C. L. Kuo, L. C. Lee and J. D. Huba, J. Geophys. Res. Space Phys., 119, 3189-3205 (2014).

6) Kelley, M. C., W. E. Swartz and K. Heki, J. Geophys. Res. Space Phys., 122, 6689-6695 (2017).

7) 小山孝一郎, Huixin Liu「大地震と電離層変動現象の相関に係る研究」研究事業報告書(三菱財団学術研究助成金)(2016).

発表者名: 足立 裕美子

発表内容: TDLASによる水の同位体計測

概  要:

 月の表面に存在する微量水の同位体をその場で計測するために宇宙機に搭載できる分析装置が必要になる。その候補の一つにTDLAS(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy)がある。これは、光学セルの両端に凹面鏡を置いて入射した赤外レーザー光を多重反射させることによって内部気体による光の吸収を計測する装置で、波長掃引行うことでランバート・ベールの法則から同位体吸収スペクトルを得る手法である。この手法はCRDS法(Cavity Ring Down Spectroscopy)に比べて、光学アライメントのずれに対する許容量がおおきいメリットがある。今回、真空漏れのない新しい多重反射セルを準備し、光学系、真空系を新たに組みなおし実験を行った。測定では2.7μm帯のレーザーを波長掃引し、セルへの入射波とセルからの透過波の比を取り、吸収強度スペクトルを算出する。

 セミナーでは使用した装置の概略を述べ、真空中での測定、及び1000Pa下での水蒸気測定結果を報告する。今後は様々な条件下での測定を行い、またレーザーの波長を2.6μm帯に拡張して測定を行う予定である。

発表者名: 岩崎 かな子

発表内容: シャコ貝を用いた古気候復元について

概  要:

 古気候学は、近代的な気象観測が行われる以前の過去の気候を復元する学問である。過去の気候を知ることは地球温暖化や未来の気候変動を予測するにあたり、大変重要である。今回のセミナーでは、シャコ貝をサンプルとした過去の日射量復元について発表を行う。シャコ貝は日輪・年輪を形成しながら成長し、この成長軸に沿ってSr/Ca比を測定することで、約5000年前の日射量を3時間の分解能で計測できることがわかっている。論文紹介と共に、今後の研究の見通しについて発表する。

発表者名: 植田 晃平

発表内容: ジオスペース探査機「あらせ」の観測データを用いた内部磁気圏の研究について

概  要:

 地球近傍の宇宙空間である内部磁気圏には、相対論的エネルギーを持つ粒子が多量に捕捉されている放射線帯が存在する。放射線帯付近を飛行する「あらせ」の粒子観測データを解析することで、放射線帯の相対論的エネルギーの電子加速過程といった内部磁気圏の謎が解明されると期待される。今回は、「あらせ」の観測データを用いた先行研究とともに内部磁気圏の研究課題を紹介する。

発表者名: 松本 匡能

発表内容: レーザーポストイオン化SNMSを用いたジルコンの局所U-Pb年代分析

概  要:

 局所U-Pb年代分析は、鉱物の結晶化年代と変成年代を特定できる点から、隕石や月試料の年代分析に有効である。しかし対象となるジルコンやアパタイトといった鉱物は数~数十μm程度の大きさしかなく、含まれるUやPbはppmオーダーでしか存在しない。そのため市販のSIMSでは1μm以下のU-Pb分析が困難である。惑星科学グループが所有するMULTUM-SNMSは、1次イオンビームによってスパッタリングされた中性粒子をレーザーイオン化することでより効率的な検出が可能となっており、精度の高いU-Pb年代分析が期待される。

 今回はH29年度の松田貴博さんによる修士論文の結果をもとに、今後MULTUM-SNMSによるU-Pb年代分析をどのように進展させていくかについて発表する。

発表者名: Addi Bischoff (Universität Münster)

発表内容: Classification of meteorites and the significance of clasts in meteorite breccias

概  要:

 Most meteorites represent pieces of different asteroids. Based on the evolution of these bodies the related meteorites are divided into differentiated and undifferentiated rocks. Chondrites are undifferentiated meteorites and can be further subdivided into ordinary, carbonaceous, Enstatite, and Rumuruti chondrites. From the differentiated parent bodies we know various groups of achondrites, stony-iron, and iron meteorites.

 After accretion of meteorite parent bodies, larger and smaller collisions have led to significant modifications of these bodies. Involved processes include excavation of material, thermal metamorphism, melting, mixing of different materials, re-accretion, and re-lithification. All these processes can be repeated several times. Breccias exist containing clasts of various types of different meteorite groups.

 In the Seminar some information about the classification of meteorites will be given as well as examples of impressive breccias will be presented.

After talk

After talk

発表者名: 渡邊 宏海

発表内容: ルナ16号試料L1613のキャラクタリゼーション

概  要:

 月の進化を議論する上で月の表面から持ち帰られたアポロ・ルナ試料は重要な情報を有している。微細な粒及び粉末の混合物であるレゴリス試料は数十億年にわたる連続的な隕石の衝突による玄武岩と斜長岩の崩壊の結果、月の表面を覆っていると考えられている。そのため、レゴリスの年代学においては、一つ一つの粒が異なる起源を有していることを考慮する必要がある。

 本研究では、月面のMare Foecunditatiから無人探査機ルナ16号が回収したレゴリス試料L1613について、SEM-EDSを用いた元素マッピングを行い、試料のキャラクタリゼーションを行った。試料内に見られる輝石に対して定量分析を行うことで個々の粒子に対して起源の同定を行い、その結果、このフラクションの多くはLow-Ti玄武岩起源であり、わずかに斜長岩質起源成分が混ざっていることが明らかになった。また、見つかったリン酸鉱物に対してをNanoSIMSを用いた局所分析を行い、そのU-Pb年代を求めた。その結果、結晶化年代が44億年と36億年の粒が混在していることが分かった。また、44億年の結晶化年代が得られた粒の組成を分析することで、その粒が高地起源のMg-Suiteであることが分かった。

今回の発表では新たに樹脂に埋め込んだ粒の大きさの異なる試料、L1613-1-2及びL1613-3-2について、鉱物の組成を解析し行ったキャラクタリゼーションの結果を報告する。

発表者名: 出口 雅樹

発表内容: イオンエネルギー質量分析器MSAの質量分析部の開発

概  要:

 イオンエネルギー質量分析器(MSA : Mars moon mass Spectrum Analyzer)は、火星衛星からのサンプルリターンを計画している火星衛星探査計画(MMX : Martian Moons eXploration)に搭載され、火星・Phobos・Diemos・太陽風起源のイオンを計測することで、火星衛星周辺のイオン環境を明らかにする観測機器である。ミッションにおける目標を達成するために、MSAは主に火星衛星周回軌道においてイオンのフラックスを組成ごとに測定することが求められ、その時に必要となる質量分解能はm/Δm=100程度である。

 MSAは上部のエネルギー計測する静電分析部と、下部の飛行時間の計測による質量分析部で構成されている。静電分析部でエネルギーが判明しているイオンは、質量分析部に入る直前に高電圧が印加されたカーボンフォイルに加速され衝突することで、電荷状態が変化する。また、質量分析部の内部には線形電場(LEF : Linear Electric Field)が構成されており、これによって反射されたイオンは中性粒子や陰イオンと比較して高い質量分解能で測定することができる。

 入射イオンとカーボンフォイルとの相互作用について、入射イオン・入射角度・入射エネルギーを変化させてTRIMを用いて計算を行った。また、得られたデータを用いて各条件でのTOFスペクトルを再計算した。今回のセミナーでは以上についての発表を行う。

発表者名: 松崎 太郎

発表内容: GEONETを用いた電離層TECの解析

概  要:

 国土地理院はGEONET(GNSS連続観測システム)で得られた電子基準点データ観測データや解析結果等を提供しており、2種類の周波数(f1 =1.575[GHz]、f2 = 1.228[GHz])のマイクロ波の情報を得ることができる。。高度約20000kmを飛んでいる衛星から送信されるマイクロ波は主に250〜400kmを中心に存在する電離層を通過する際に遅延を起こし、その量は周波数の自乗に反比例することから2波の擬似距離遅延差[m]、搬送波位相遅延差[m]より電離層内の視線上の総電子数(TEC)を求めることができる。TECは主に磁気嵐や大規模移動性擾乱などの太陽活動によって異常を起こすことがあるが、Mw8.0を超えるような多くの大地震の直前約40〜50分前に震源上空に局所的な正の異常を起こしていることが報告されており(Heki, 2018)、地震活動とTEC異常の相関が示唆されている。しかし、TEC異常と地震の関係は現状ほとんど明らかにされておらず、地震発生時以外も含めたあらゆる場所・時間でのTEC変動を解析することによってTEC異常をより高い精度にモデル化することが必要である。本セミナーでは、前回紹介した衛星および受信機に起因するバイアスを補正したVTEC値(2011年3月11日)に加え、同様の手法で求めた2011年2月27日から2011年4月2日までのVTEC値を紹介し、地震の有無とVTEC変動の関連について議論する。また、これまでは福島県の相馬1電子基準点についてVTEC値を求めていたが、同時刻の周辺の電子基準点におけるVTEC値と比較することで、VTEC変動と位置の関連についても議論したい。

発表者名: 室田 雄太

発表内容: 負ミューオンビームを用いた隕石の非破壊元素分析

概  要:

 物質の透過能力が高い素粒子であるミューオンを用いて、様々な試料を分析する研究が近年進められている。負ミューオンビームを用いた実験では、試料の元素組成を、三次元的に非破壊で分析することが可能であり、考古学資料や隕石を科学的に分析する有用な手段としての利用が期待されている。今回の発表では、実験の概要と解析の進捗について発表を行う。

発表者名: 山口 若奈

発表内容: 磁気並進運動を用いた揮発性固体の分離・識別装置の開発

概  要:

 我々の身の回りにある多くの物質は、各々固有の反磁性磁化率を有している。先行研究では、小型のネオジム永久磁石を用いて磁気並進運動させることで、異なる粒子の集合体を磁化率ごとに分離・識別できることが、微小重力環境を利用して示されている。この実験は、先行研究では室温条件のみで行われてきたが、自然界には地球上の寒冷地や太陽系外縁部など、揮発性の低温固体が多数を占める領域が多い。そこで、これらの領域で固体粒子の存在比を容易に計測する新たな手段として、上記の磁気分離の原理が利用できないかと考え、その可能性を探るために装置開発を行っている。今回、分解能の向上を目的として高感度カメラを導入した。卒業研究で行った磁気回路の変更と今回の高感度カメラの導入により、分解能がどのように向上したかを評価する。

発表者名: 津田 洸一郎

発表内容: 磁気嵐中リングカレントにおけるイオンに関する研究

概  要:

 地球の磁気圏は希薄なプラズマで満たされているが、太陽活動を起因とする磁気嵐などに伴い、その構造は大きく変動する。その変動を理解し予測することは、人類の宇宙空間における安全な活動において重要である。また、地球の磁気圏プラズマは、直接、かつ詳細に観測できる唯一の宇宙プラズマであり、宇宙空間の大半を占めるプラズマ環境の理解につながるという側面も持つ。

 本研究では、あらせ衛星に搭載されている、Medium-energy particle experiments-ion mass analyzer(MEP-i)のデータを用いて、リングカレント中のなどの分子イオンの観測を目指している。今回、2017年5月28日に起きた磁気嵐(nT)におけるTOFスペクトルのデータを解析したので、その結果を報告する。

発表者名: 久好 圭治

発表内容: 重力を変数として毛細管現象を再検討する

概  要:

 液体には表面積を小さくしようとする力である表面張力が働く.細い管の中にある液体は表面張力により液面が上昇する毛細管現象がよく知られている.理論によると,この液面の高さは,管の半径および重力に反比例している.管の半径を変化させた実験はこれまでに行われており,理論式に従うことが確認されている.われわれは,管の半径を固定し,重力を変化させて同様の結果が得られるのかを確認するために実験を行った.液体試料に水を用いた場合,液面の高さは理論式に従わず,ある一定の重力値で上昇が停止した.一方,液体試料にエタノール・メタノールを用いたところ,理論式に従って液面の高さは重力値に反比例して上昇した.この実験結果を踏まえ,理論式,実験方法を考察する.

発表者名: 村山 純平

発表内容: 月面微量水の同位体測定へ向けたCRDS(Cavity Ring-Down Spectroscopy)測定装置の開発

概  要:

 月面における水の存在は、月探査において、かねてからその確証が熱望されるテーマであり、近年では資源として利用できる存在量かどうかという議論も盛んになされている。一方、月面水が存在する場合、その起源や挙動など学的見地を明らかにすることもまた重要である。そのためには、月面で水を採取し、その同位体測定を行う必要がある。そのための候補の一つとして、我々はCRDS(Cavity Ring-down Spectroscopy)に可能性があると考えている。

 CRDSとは、赤外半導体レーザーを用い、その波長を試料の同位体吸収線に同調させるとともに、超高反射鏡を用いた光トラップ共振器で共振させ、それから得られた吸収緩和の時間変化から水同位体の定量を行う分光法である。この手法により、数十cmという装置筐体ながら約数kmという長い有効光路長を得ることができ、小型高感度という宇宙機搭載に適した性能を発揮することができる。また、吸収緩和の時間変化を見るという性質により、共振器からの透過光を観測するだけで良いというのもこの測定手法の利点の一つである。

 現在、我々は衛星搭載用装置の前段階として、実験室的環境下のCRDSを用いて、レーザー波長の掃引による水蒸気吸収スペクトルの測定を行っており、今回はその進捗をご報告させていただく予定である。今後、温度変化や圧力変化等に対する安定性を改善することで、月面水の起源を同定するための水同位体比の要求精度δD = ±100‰、δO17,18 = ±1‰の達成を試みるとともに、CRDSによる水同位体比測定のノウハウ獲得を目指す。

発表者名: 出口 雅樹

発表内容: イオンエネルギー質量分析器MSAの質量分析部の開発

概  要:

 イオンエネルギー質量分析器(MSA:Mars moon mass Spectrum Analyzer)は、火星衛星のPhobosからのサンプルリターンを計画している火星衛星探査計画(MMX:Martian Moons eXploration)に搭載され、火星・Phobos・太陽風起源のイオンを計測することで、Phobos周辺のイオン環境を明らかにする観測機器である。ミッションにおける目標を達成するために、MSAは主にPhobos周回軌道においてイオンのフラックスを組成ごとに測定することが求められ、その時に必要となる質量分解能はm/Δm=100程度である。

 質量分析部の内部に構成されている線形電場(LEF:Linear Electric Field)の形状に影響を与えるメッシュの曲率半径を変化させたときの、それぞれの質量分解能を数値計算によって求めた。また、入射イオンとカーボンフォイルとの相互作用について、TRIMを用いて計算を行った。今回のセミナーでは以上についての進捗報告を行う。

発表者名: 渡邊 宏海

発表内容: ルナ16号試料L1613のキャラクタリゼーション

概  要:

 月の進化を議論する上で月の表面から持ち帰られたアポロ・ルナ試料は重要な情報を有している。微細な粒及び粉末の混合物であるレゴリス試料は数十億年にわたる連続的な隕石の衝突による玄武岩と斜長岩の崩壊の結果、月の表面を覆っていると考えられている。そのため、レゴリスの年代学においては、一つ一つの粒が異なる起源を有していることを考慮する必要がある。 本研究では、月面のMare Foecunditatiから無人探査機ルナ16号が回収したレゴリス試料L1613について、SEM-EDSを用いた元素マッピングを行い、試料のキャラクタリゼーションを行った。試料内に見られる輝石に対して定量分析を行うことで個々の粒子に対して起源の同定を行い、その結果、このフラクションの多くはLow-Ti玄武岩起源であり、わずかに斜長岩質起源成分が混ざっていることが明らかになった。また、見つかったリン酸鉱物に対してをNanoSIMSを用いた局所分析を行い、そのU-Pb年代を求めた。その結果、結晶化年代が44億年と36億年の粒が混在していることが分かった。また、44億年の結晶化年代が得られた粒の組成を分析することで、その粒が高地起源のMg-Suiteであることが分かった。

 今回の発表では新たに樹脂に埋め込んだ粒の大きさの異なる試料、L1613-1-2及びL1613-3-2についての報告する。

発表者名: 松崎 太郎

発表内容: GEONETを用いた電離層TECの解析

概  要:

 国土地理院はGEONET(GNSS連続観測システム)で得られた電子基準点データ観測データや解析結果等を提供しており、2種類の周波数(f1 =1.575[GHz]、f2 = 1.228[GHz])のマイクロ波の情報を得ることができる。。高度約20000kmを飛んでいる衛星から送信されるマイクロ波は主に250〜400kmを中心に存在する電離層を通過するときに遅延を起こし、その量は周波数の自乗に反比例しており、2波の擬似距離遅延差[m]、搬送波位相遅延差[m]から電離層内の視線上の総電子数(TEC)を求めることができる。TECは主に磁気嵐や大規模移動性擾乱などの太陽活動によって異常を起こすことがあるが、Mw8.0を超えるような多くの大地震の直前約40〜50分前に震源上空に局所的な正の異常を起こしていることが報告されており(Heki, 2018)、地震活動とTEC異常の相関が示唆されている。しかし、TEC異常と地震の関係は現状ほとんど明らかにされておらず、地震発生時以外も含めたあらゆる場所・時間でのTEC変動を解析することによってTEC異常をより高い精度にモデル化することが必要である。本セミナーでは、前回紹介した2011年3月のslantTEC値に対し、衛星および受信機に起因するバイアスを推定し、改めて得られたslantTEC値との比較を行うことで、今後の展望を議論する。

発表者名: 室田 雄太

発表内容: 負ミューオンビームを用いた隕石の非破壊元素分析

概  要:

 物質の透過能力が高い素粒子であるミューオンを用いて、様々な試料を分析する研究が近年進められている。負ミューオンビームを用いた実験では、試料の元素組成を、三次元的に、非破壊で分析することが可能であり、考古学資料や隕石を科学的に分析する有用な手段としての利用が期待されている。今回の発表ではその測定原理と、四種類の隕石試料を分析した10月の実験について、実験概要と卒業研究からの解析の進捗を報告する。

発表者名: 山口 若奈

発表内容: 磁気並進運動を用いた揮発性固体の分離・識別装置の開発

概  要:

 我々の身の回りにある多くの物質は、各々固有の反磁性磁化率を有している。先行研究では、小型のネオジム永久磁石を用いて磁気並進運動させることで、異なる粒子の集合体を磁化率ごとに分離・識別できることが、微小重力環境を利用して示されている。この実験は、先行研究では室温条件のみで行われてきたが、自然界には地球上の寒冷地や太陽系外縁部など、揮発性の低温固体が多数を占める領域が多い。そこで、これらの領域で固体粒子の存在比を容易に計測する新たな手段として、上記の磁気分離の原理が利用できないかと考え、その可能性を探るために装置開発を行っている。前回のセミナーでは、エタン粒子(融点90K)の磁気並進の観測を目指して装置開発を行ったことを報告した。今回、これまで行った研究として 2 成分粒子(ドライアイス-黒鉛)の磁化率測定を紹介し、進捗報告としてエタン粒子の測定結果を報告する。

発表者名: 津田 洸一郎

発表内容: SS520-3観測ロケット搭載用低エネルギー粒子計測器の性能評価

概  要:

 超高層大気の加速・流出現象は、地球のみならず火星、水星を含む他惑星や衛星周辺でも起こる普遍的な現象であることが最近の観測で分かってきた。しかし、その流出機構は、それぞれの天体で様々に変化する。それらの機構を理解することは天体周辺の大気の変遷を理解・予測する上で必要不可欠である。その流出機構の解明を目的として、SS520-3観測ロケットは2019年度以降の1月に打ち上げを予定している。SS520-3観測ロケットには、磁場・電場の観測器などと共に、電子用とイオン用の低エネルギー粒子計測器が搭載される。

 本研究では、1月のロケット打ち上げに向けて、この粒子計測器の性能評価を行っている。今回、検出器64チャンネルすべての感度を計算しその性能評価を行ったので、その詳細を報告する予定である。

発表者名: 村山 純平

発表内容: 月面微量水の同位体測定へ向けたCRDS(Cavity Ring-Down Spectroscopy)測定装置の開発

概  要:

 月面における水の存在は、月探査において、かねてからその確証が熱望されるテーマであり、近年では資源として利用できる存在量かどうかという議論も盛んになされている。一方、月面水が存在する場合、その起源や挙動など学的見地を明らかにすることもまた重要である。そのためには、月面で水を採取し、その同位体測定を行う必要がある。そのための候補の一つとして、我々はCRDS(Cavity Ring-down Spectroscopy)に可能性があると考えている。

 CRDSとは、赤外半導体レーザーを用い、その波長を試料の同位体吸収線に同調させるとともに、超高反射鏡を用いた光トラップ共振器で共振させ、それから得られた吸収緩和の時間変化から水同位体の定量を行う分光法である。この手法により、数十cmという装置筐体ながら約数kmという長い有効光路長を得ることができ、小型高感度という宇宙機搭載に適した性能を発揮することができる。また、吸収緩和の時間変化を見るという性質により、共振器からの透過光を観測するだけで良いというのもこの測定手法の利点の一つである。

 現在、我々は衛星搭載用装置の前段階として、実験室的環境下のCRDSを用いて、レーザー波長の掃引による水蒸気吸収スペクトルの測定を行っており、今回はその進捗をご報告させていただく予定である。今後、温度変化や圧力変化等に対する安定性を改善することで、月面水の起源を同定するための水同位体比の要求精度δD = ±100‰、δO17,18 = ±1‰の達成を試みるとともに、CRDSによる水同位体比測定のノウハウ獲得を目指す。

発表者名: 横田 勝一郎

発表内容: 小天体から放出する天体起源粒子: Kaguyaの観測

概  要:

 月のような大気を持たない小型天体は周囲と様々な物質のやり取りを行っている。その一例として、太陽風照射による天体表層を構成する粒子の放出がある。月周回衛星Kaguyaにはイオン質量分析器が搭載されていて、この放出粒子の全球的な観測を行っている。今回はKaguya観測データから以下二点について議論する。

 1) 周回軌道上での天体表層物質分析

 2) 揮発性元素の放出(と獲得)

発表者名: 寺田 健太郎

発表内容: 小惑星イトカワ微粒子の局所U-Pb年代分析

概  要:

 小惑星イトカワは、近日点が地球軌道の内側に入る地球近傍小惑星です。2003 年に打ち上げられた日本の小惑星探査機「はやぶさ」は、2005 年に小惑星イトカワへの着陸を試み、2010 年には人類初の小惑星微粒子を地球に持ち帰ることに成功しました。

 我々の研究グループは、2013年より直径約50ミクロンのイトカワ微粒子中にごく稀に含まれる数ミクロンサイズのリン酸塩鉱物に着目し、2次イオン質量分析計を用い、ウラン(U)と鉛(Pb)の精密同位体分析(U-Pb 年代分析)を行ってきました。結果、4粒の微粒子中のリン酸塩鉱物が小惑星イトカワ母天体で46.4 ± 1.8億年前に結晶化し、15.1 ± 8.5億年前に衝撃変成を受けたことを明らかにしました (Terada et al. Sci. Rep. 2018)。セミナーでは、研究成果のほか、裏話、今後やってみたいことなどを交えて、ご紹介します。

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2018年度

発表者名: 前薗 大聖

発表内容: 火成岩の圧力誘起電流の温度依存性-巨大地震先行的電離圏擾乱の機構解明に向けて-

概  要:

 巨大地震に関連する電磁気現象として電離圏異常が2011年東北地方太平洋沖地震以降指摘されている。この現象のメカニズムには、地中岩石の応力誘起電荷による電離圏の電場の形成が考えられる。このシナリオとして、①地震発生直前に震源核が形成され、断層が壊れ始める。②岩石に強い応力がかかり過酸化架橋構造が活性化し、その時生じた正孔が周辺へと拡散していく。③その電荷による電場が、震源上電離圏に誘導電場を作る。④この誘導電場と地球磁場の作用によって電離圏電子が移動し、震源上空電離圏に正の電子密度異常が生じると考えている。過酸化架橋構造の活性化によって電離圏異常を説明できるか考察するために、本研究では、斑レイ岩を一軸圧縮したときに流れる電流の温度依存性を調べている。今回の発表では、前回の発表からの装置の改善点と試料の斑レイ岩に10MPaを加え、各温度での電流の大きさを調べた結果の進捗を報告する。

発表者名: 渡邉 宏海

発表内容: ルナ16号試料L1613のキャラクタリゼーション

概  要:

 月の進化を議論する上で、月試料は重要である。月のレゴリスは、月面に見られる微細な粒及び粉末の混合物であり、数十億年にわたる連続的な隕石の衝突によって引き起こされた、玄武岩と斜長岩の機械的な崩壊の結果であると考えられている。そのため、レゴリスの年代学においては、個々の粒が異なる起源を有することが考慮されるべきである。

 本研究では、Mare Foecunditatiから回収されたルナ16号試料L1613サンプルで見つかったリン酸鉱物に対してNanoSIMSを用いた局所分析を行い、U-Pb年代を求めた。その結果、結晶化年代が44億年と36億年の粒があることが分かった。今回の発表では、試料の研磨を行い、再度SEM-EDSで観察を行った結果を報告したいと思う。

発表者名: 藤本 駿

発表内容: 二次中性粒子質量イメージングシステムの開発

概  要:

 地球惑星科学分野において、二次イオン質量分析計(SIMS: Secondary Ion Mass Spectrometer)を用いた局所同位体分析は欠かすことのできない分析手法である。SIMSは微小領域の分析手法として広く用いられているが、イオン化効率が低いため、試料のロスに対して感度が低いという問題が存在する。このような問題を解決するため、我々のグループでは、一次イオンビームによってスパッタされた中性粒子をフェムト秒レーザーでポストイオン化する二次中性粒子質量分析計(SNMS: Secondary Neutrals Mass Spectrometer)の開発を行っている。

 本研究では、SNMSで質量イメージング像を取得することを目的としている。本実験装置は、集束イオンビーム加工装置(FIB: Focused Ion Beam)を一次イオンビームとして用いている。イオンビーム走査機能を外部制御し、各座標における質量スペクトルから質量ごとにスペクトルの再構成を行うことで、イオン強度分布を作成する。

 イオンビームをX、Y軸方向に走査することで二次元強度分布を作成した。得られたイメージング像では、半導体検出器のSiのパターンを確認できSEM像とほぼ対応していた。今回のセミナーでは、イメージングの結果と今後の課題を報告する。

発表者名: 松崎 太郎

発表内容: GEONETを用いた電離層TECの解析

概  要:

 国土地理院はGEONET(GNSS連続観測システム)で得られた電子基準点データ観測データや解析結果等を提供している。観測データには2種類の周波数(f1 = 1.575[GHz]、f2 = 1.228[GHz])のマイクロ波の情報が載せられており、変調されたPRNコード位相の到達時間から得られるGNSS衛星と観測局の擬似距離[m]、変調される前の搬送波の位相状態の観測から得られる搬送波位相[cycles]を取得することができる。

 高度約20000kmを飛んでいる衛星から送信されるマイクロ波は主に250〜400kmを中心に存在する電離層を通過するときに遅延を起こし、その量は周波数の自乗に反比例しており、2波の擬似距離遅延差[m]、搬送波位相遅延差[m]から電離層内の視線上の総電子数(TEC)を求めることができる。

 TECは主に磁気嵐や大規模移動性擾乱などの太陽活動によって異常を起こすことがあるが、Mw8.0を超えるような多くの大地震の直前約40〜50分前に震源上空に局所的な正の異常を起こしていることが報告されており(Heki, 2018)、地震活動とTEC異常の相関が示唆されている。しかし、TEC異常と地震の関係は現状ほとんど明らかにされておらず、地震発生時以外も含めたあらゆる場所・時間でのTEC変動を解析することによってTEC異常を厳密にモデル化することが必要である。

 今回は、前回求めたSTEC(視線上の総TEC数)に加え、電子基準点データから得られる航法メッセージ(Ephemeris)を用いてGPSの軌道計算および、基準点との仰角などを計算し、高度300kmと仮定した電離層での鉛直TEC数(VTEC)を求めた。本セミナーでは航法メッセージからGPSの位置を決定する方法の紹介や解析コードと、2011年3月上旬のVTEC変動、GPS軌道グラフを紹介し、今後の展望を議論する。

発表者名: 新述 隆太

発表内容: 月極域探査に向けた水分子同位体測定レーザー装置の開発

概  要:

 近年リモートセンシング技術の発達などにより月極域には一定量の水が存在することが示唆されているが、その存在量や起源は定かではなく、サンプルリターンによる地球水の汚染を考えると、月面でのその場観測によってのみこの問題は解決する。一般に質量分析計を用いた同位体分析法では、水分子同位体を測定する際に生じる同重体を質量分離するために非常に高い質量分解能を要するので、大型の質量分析計が必要となり、宇宙機搭載が困難である。この点において光学分析法は軽量に構成されるので有利である。分子ごとによって吸収波長がわずかに異なることを利用し、測定物質の数密度決定や同位体分析を行う手法であり、地上では半導体レーザーを用いた光学分析計が微量水分計測用や同位体測定用しても広く普及している。

 今回の発表では装置を自動化したことによる分解能の向上、温度によるピーク強度変化の測定など実験の進捗を発表する。

発表者名: 山口 若奈

発表内容: 磁気並進運動を用いた揮発性固体の分離・識別装置の開発

概  要:

 自然界では、地球上の寒冷地や外惑星領域など、揮発性固体が多数を占める領域が多い。これらの領域で固体粒子の物質を分離・識別することは、その領域の探査を効率的に進める上で重要である。我々の身の回りにある多くの物質は、各々固有の反磁性磁化率を有している。先行研究では、小型の永久磁石を用いて磁気並進運動をさせることで、異なる粒子の集合体を磁化率ごとに分離・識別できることが示されている。そこで、低温領域において固体物質の存在比をその場で簡単に観測するために、新たな手段として上記の磁気分離の原理が利用できないかと考えた。その可能性を探るために装置開発を行っている。前回のセミナーでは、より低温で固体となるエタン粒子(融点 90K)の磁気並進を目指し、装置開発を行ったことを報告した。しかし、まだ解決すべき問題が残っている。今回、それらの問題解決を目指して改良を行ったので、その進捗状況について報告する。

発表者名: 諸本 成海

発表内容: サンプル分析・リモート探査データによるルナ20号サンプル組成の考察

概  要:

 1972年に当時のソ連によって打ち上げられた無人月探査機「ルナ20号」は、月の表側のコペルニクス高地に着陸し、レゴリスサンプルを採取した。本研究ではサンプル中のphosphateに対し、結晶化年代と変成年代の両方を求めることのできるtotal U/Pb isochron法を用いて年代情報を得ることを目的としている。以前に分析を行った月隕石NWA 2977やルナ24号サンプルのときと同様、空間分解能の高い二次イオン質量分析装置(NanoSIMS)による分析を目指しており、分析可能なサイズのphosphateを確保するため、新たにサンプルの作成を行った。今回の発表では、SEM-EDSによるこのサンプルの分析結果を報告する。また、月周回衛星「かぐや」が取得したデータを用いて、ルナ20号着陸地点付近の元素分布に関する考察も行う予定である。

発表者名: 村山 純平

発表内容: CRDS: Cavity Ring-Down Spectroscopy for water isotope

概  要:

 近年、月を含め太陽系天体における水への興味はますます高いものとなっている。存在量や相状態はもちろん、さらにそこに含まれる酸素や水素の同位体比を調べることにより、その供給源にある程度の制約を与えることができる。しかしながら同位体比のわずかな変動を捉えるには非常に高い精度の測定が必要となり、またサンプルリターンによる地球での測定においてはコンタミの影響が大きいことから、宇宙機に搭載できるような小型でかつ高精度な測定装置が要求される。

 半導体レーザーを用いたガス吸光分光計であるCRDS(Cavity Ring-Down Spectroscopy)は、ファブリペロー共振器を用いた光路長の増長(~5km)により、数十cm以内と小型ながら高い感度を有する装置である。現在このCRDSを用いた水同位体分析計が宇宙機搭載を目指し開発中であり、その基礎として、本研究は実験室環境下での水同位体測定の実証に向け精度の向上を図るものである。

 温度や圧力、波長等のモニター・コントロールシステムの構築、解析過程の見直しなど様々な課題を克服し、今回、一つの目標であった重水の測定を行った。本セミナーでは測定・解析の詳細とその結果についてお伝えする予定である。

発表者名: 津田 洸一郎

発表内容: SS520-3用粒子計測器の性能評価

概  要:

 電離大気の加速・流出現象は、地球のみならず火星、水星を含む他惑星や衛星周辺でも起こる普遍的な現象であることが最近の観測で明らかとなってきた。しかし、その流出機構については、それぞれの天体で様々に変化し、それらの機構を理解することは天体周辺の大気の変遷を理解・予測する上で必要不可欠である。SS520-3観測ロケット実験は、地球で主要な電離大気流出が起きている極域カスプ周辺領域において、電離大気流出の原因として理論的に想定されている波動―粒子相互作用を、将来の人工衛星ミッションに向けて新たに開発された観測装置を用いて世界で初めてその場で検出、解明するミッションである。

 一般的に粒子計測器の感度を評価する際にg-factorという値を用いる。実験データからg-factorを計算し、装置の感度の評価を試みた。今回の発表では、g-factorの計算方法とその計算結果についての報告を行う。

発表者名: 出口 雅樹

発表内容: 論文紹介

タイトル: An optimized three-dimensional linear-electric-field time-of-flight analyzer (J. A. Gilbert, et al., 2010, Rev. Sci. Instrum.)

概  要:

 惑星、太陽、もしくはそのほかの発生源に由来する宇宙空間のプラズマの特性をその場で測定することは、宇宙環境の理解を向上させるために必要不可欠である。静電分析装置とTOF法を用いた質量分析計はイオンの組成を識別することができる。炭素薄膜を通過した一部の正電荷イオンは線形電場(ELF)によって軌道を変えられ、放射板に衝突し二次電子を放出させる。質量分析計ではこの二次電子をenergy-isochronous運動を経験しない粒子と分離して観測することで、高い質量分解能を実現する。

 今回のセミナーではこれに関する論文「An optimized three-dimensional linear-electric-field time-of-flight analyzer」の紹介を行う。

発表者名: 室田 雄太

発表内容: 負ミューオンビームを用いた隕石の非破壊元素分析

概  要:

 物質の透過能力が高い素粒子であるミューオンを用いて、様々な試料を分析する研究が近年進められている。負ミューオンビームを用いた実験では、試料の元素組成を、三次元的に、非破壊で分析することが可能であり、考古学資料や隕石を科学的に分析する有用な手段としての利用が期待されている。今回の発表ではその測定原理と、四種類の隕石試料を分析した10月の実験について、実験概要と解析結果を報告する。

発表者名: 河井 洋輔

発表内容: 主成分分析を用いたLunaレゴリス試料の分類

概  要:

 主成分分析は、データ要素間の相関性を取り除き、より少数の変量でデータを表現できるようにする多変量データ解析の一手法である。地球惑星科学分野では、小惑星のスペクトル分類などに用いられている (DeMeo+2009)。今回、ロシアの無人月探査機Luna20号および24号のリターンサンプルである月レゴリスの分類に本手法を適用した。

 具体的には、月隕石4種 (高地起源: PCA02007, QUE93069、海起源: MET01210, EET87521)、およびLuna20号, 24号サンプル (L2001, L24130) 中に含まれる輝石の元素濃度をSEM-EDSで測定し、主成分分析を適用した。得られたLoading plotから、第一主成分はMg/(Mg+Fe+Ca)を表し、第二主成分はFe/(Fe+Al+Ca)を表していることが分かった。さらに月隕石のScore plotを参考に、レゴリス試料を海起源と高地起源に分類する閾値を決定した。

 今回のセミナーでは本結果を参考例として、主成分分析とはどのような解析手法であり、実際にどのように計算するかについて詳細な解説を行う。

発表者名: 前薗 大聖

発表内容: 火成岩の圧力誘起電流の温度依存性 -巨大地震先行的電離圏擾乱の機構解明に向けて-

概  要:

 巨大地震に関連する電磁気現象として電離圏異常が2011年東北地方太平洋沖地震以降指摘されている。この現象のメカニズムには、地中岩石の応力誘起電荷による電離圏の電場の形成が考えられる。このシナリオとして、①地震発生直前に震源核が形成され、断層が壊れ始める。②岩石に強い応力がかかり過酸化架橋構造が活性化し、その時生じた正孔が周辺へと拡散していく。③その電荷による電場が、震源上電離圏に誘導電場を作る。④この誘導電場と地球磁場の作用によって電離圏電子が移動し、震源上空電離圏に正の電子密度異常が生じると考えている。過酸化架橋構造の活性化によって電離圏異常を説明できるか考察するために、本研究では、斑レイ岩を一軸圧縮したときに流れる電流の温度依存性を調べている。

 今回の発表では、試料の斑レイ岩3×10×10cmに10MPaを加え、各温度での電流の大きさを調べた結果等の進捗と装置の改善点について報告する。

発表者名: 渡邊 宏海

発表内容: ルナ16号試料L1613のキャラクタリゼーション

概  要:

 月の進化を議論する上で、月試料は重要である。月のレゴリスは、月面に見られる微細な粒及び粉末の混合物であり、数十億年にわたる連続的な隕石の衝突によって引き起こされた、玄武岩と斜長岩の機械的な崩壊の結果であると考えられている。そのため、レゴリスの年代学においては、個々の粒が異なる起源を有することが考慮されるべきである。

 本研究では、Mare Fecunditatisから回収されたルナ16号試料L1613、約1500粒のレゴリス試料について、SEM-EDSを用いて元素マッピングを行ない、さらにリン酸塩鉱物と輝石に対して定量分析を行うことで、個々の粒子の起源を同定した。その結果、このフラクションの多くはLow-Ti玄武岩起源であり、わずかに斜長岩質起源成分が混ざっていることが明らかになった。また、見つかったリン酸鉱物に対してNanoSIMSを用いた局所分析を行い、U-Pb年代を求めた。その結果、結晶化年代が44億年と36億年の粒があることが分かった。

 今回の発表では、NanoSIMSで得られたデータの精査を行い、再度求めた年代測定の結果について報告する。

発表者名: 松崎 太郎

発表内容: GEONETを用いた電離層TECの解析

概  要:

 国土地理院はGEONET(GNSS連続観測システム)で得られた電子基準点データ観測データや解析結果等を提供している。観測データには2種類の周波数(f1 = 1.575[GHz]、f2 = 1.228[GHz])のマイクロ波の情報が載せられており、変調されたPRNコード位相の到達時間から得られるGNSS衛星と観測局の擬似距離[m]、変調される前の搬送波の位相状態の観測から得られる搬送波位相[cycles]を取得することができる。高度約20000kmを飛んでいる衛星から送信されるマイクロ波は主に250〜400kmを中心に存在する電離層を通過するときに遅延を起こし、その量は周波数の自乗に反比例しており、2波の擬似距離遅延差[m]、搬送波位相遅延差[m]から電離層内の視線上の総電子数(TEC)を求めることができる。

 TECは主に磁気嵐や大規模移動性擾乱などの太陽活動によって異常を起こすことがあるが、Mw8.0を超えるような多くの大地震の直前約40〜50分前に震源上空に局所的な正の異常を起こしていることが報告されており(Heki, 2018)、地震活動とTEC異常の相関が示唆されている。しかし、TEC異常と地震の関係は現状ほとんど明らかにされておらず、地震発生時以外も含めたあらゆる場所・時間でのTEC変動を解析することによってTEC異常を厳密にモデル化することが必要である。そこで公開されている電子基準点データから視線上のSlantTEC (STEC) 値を求め時間変化をプロットするプログラムをPythonを用いて作成した。

 本セミナーではSTEC (視線上の総TEC数) 解析コードと、東北地方太平洋沖地震が発生した2011年3月のSTEC変動を紹介し、地震との関連性、今後の展望を議論する。

発表者名: 藤本 駿

発表内容: 二次中性粒子質量イメージングシステムの開発

概  要:

 地球惑星科学分野において、二次イオン質量分析計(SIMS: Secondary Ion Mass Spectrometer)を用いた局所同位体分析は欠かすことのできない分析手法である。SIMSは微小領域の分析手法として広く用いられているが、イオン化効率が低いため、試料のロスに対して感度が低いという問題が存在する。このような問題を解決するため、我々のグループでは、一次イオンビームによってスパッタされた中性粒子をフェムト秒レーザーでポストイオン化する二次中性粒子質量分析計(SNMS: Secondary Neutrals Mass Spectrometer)の開発を行っている。

 現行のSNMSでは、任意の座標一点の質量スペクトルを取得し、隕石の年代分析や太陽系前駆物質 (プレソーラー粒子) の起源の同定を試みている。同位体比が均質な物質の分析では、このような点による分析で十分であるが、局所的に同位体異常のある物質など、同位体的に不均一な物質の分析では、イメージングによる面の分析が有効である。そのため、イオンビームを走査し、一点一点の座標におけるスペクトルを取得する、質量イメージングシステムの構築を検討している。本実験装置は、集束イオンビーム加工装置(FIB: Focused Ion Beam)を一次イオンビームとして用いている。ビーム径は最大4nmまで絞ることができ、1pixelあたり4.8mVの座標電圧を加えることでイオンビームを走査している。その座標電圧をDAC (digital to analog converter) を用いることで外部制御し、各座標における質量スペクトルから、質量ごとにスペクトルの再構成を行うことで、強度分布を作成する。イメージングの基礎実験としてラインスキャンを行った。前回までは、座標電圧を手入力することでイオンビームを走査させていたが、今回は自動で走査させて各イオンの一次元プロファイルを作成した。セミナーでは、ラインスキャンの結果と現状を報告する。

発表者名: 新述 隆太

発表内容: 月極域探査に向けた水分子同位体測定レーザー装置の開発

概  要:

 近年リモートセンシング技術の発達などにより月極域には一定量の水が存在することが示唆されているが、その存在量や起源は定かではなく、サンプルリターンによる地球水の汚染を考えると、月面でのその場観測によってのみこの問題は解決する。一般に質量分析計を用いた同位体分析法では、水分子同位体を測定する際に生じる同重体を質量分離するために非常に高い質量分解能を要するので、大型の質量分析計が必要となり、宇宙機搭載が困難である。この点において光学分析法は軽量に攻勢されるので有利である。分子ごとによって吸収波長がわずかに異なることを利用し、測定物質の数密度決定や同位体分析を行う手法であり、地上では半導体レーザーを用いた光学分析計が微量水分計測用や同位体測定用しても広く普及している。

 今回の発表では装置の改善点や実験の進捗を報告する。

発表者名: 山口 若奈

発表内容: 磁気並進運動を用いた揮発性固体の分離・識別装置の開発

概  要:

 自然界では、地球上の寒冷地や外惑星領域など、揮発性固体が多数を占める領域が多い。これらの領域で固体粒子の物質を分離・識別することは、その領域の探査を効率的に進める上で重要である。我々の身の回りにある多くの物質は、各々固有の反磁性磁化率を有している。先行研究では、小型の永久磁石を用いて磁気並進運動をさせることで、異なる粒子の集合体を磁化率ごとに分離・識別できることが示されている。そこで、低温領域において固体物質の存在比をその場で簡単に観測するために、新たな手段として上記の磁気分離の原理が利用できないかと考えた。その可能性を探るために装置開発を行っている。

 前期セミナーでは、ドライアイス粒子(融点217K)及び黒鉛との2成分粒子の測定が実現したことを報告した。今回、より低温で固体となるエタン粒子(融点90K)の磁気並進を目指し、装置開発を行ったので、その進捗状況について報告する。

発表者名: 諸本 成海

発表内容: NWA2977に関する考察とルナ20号サンプルの鉱物組成

概  要:

 1972年に当時のソ連によって打ち上げられた無人月探査機「ルナ20号」は、月の表側のコペルニクス高地に着陸し、レゴリスサンプルを採取した。このサンプルに関し、先行研究では40億年程度の結晶化年代が報告されているが、測定法の違いにより年代値に違いがみられる。本研究ではサンプル中のphosphateに対し、結晶化年代と変成年代の両方を求めることのできるtotal U/Pb isochron法を用いて年代情報を得ることを目指している。これまでに分析した3つのルナ20号サンプルでは、極めて小さなphosphateのほか、特徴的な主成分組成をもつsilicateの粒が見つかっている。今回の発表ではこれらのphosphateの分析可能性や、silicateの組成の特徴について述べる。また、卒業研究の対象である月隕石 NWA 2977に関しては現在論文執筆中であり、これについても他のサンプルとの比較等を含めた議論を行う予定である。

発表者名: 村山 純平

発表内容: 月面水探査に向けた半導体レーザー分光計CRDS(Cavity Ring-Down Spectroscopy)の開発

概  要:

 現在、様々な探査でのセンシング測定により、月面における自由水の存在が明らかになりつつある。しかし、その厳密な量、供給源等の詳細な情報を得るためにはその場分析にて水の同位対比を厳密に調べる必要があり、宇宙機にも搭載できるような小型・高感度の同位体測定装置が必要となる。半導体レーザーを用いた吸光分光計であるCRDSは、高反射ミラーを用いたレーザー光の共振を利用することで1m以内と小型ながら数kmの有効光路長を得ることができ、同位体測定に耐えうる高い感度を実現できる。ただし、この装置を月面水同位体測定での仕様に耐えうるものにするためには、光学配置や測定方法の工夫が必要である。

 本研究では、それらの課題を克服するための基礎として、実験室的環境下でのCRDS装置の開発を行っている。当セミナーではその試行錯誤の現状と課題を報告させていただく予定である。

発表者名: 津田 洸一郎

発表内容: SS520-3用粒子計測器の性能評価

概  要:

 電離大気の加速・流出現象は、地球のみならず火星、水星を含む他惑星や衛星周辺でも起こる普遍的な現象であることが最近の観測で明らかとなってきた。しかし、その流出機構については、それぞれの天体で様々に変化し、それらの機構を理解することは天体周辺の大気の変遷を理解・予測する上で必要不可欠である。SS520-3観測ロケット実験は、地球で主要な電離大気流出が起きている極域カスプ周辺領域において、電離大気流出の原因として理論的に想定されている波動―粒子相互作用を、将来の人工衛星ミッションに向けて新たに開発された観測装置を用いて世界で初めてその場で検出、解明するミッションである。今回はSS520-3用粒子計測器の測定原理について発表する。

発表者名: 出口 雅樹

発表内容: MMX用イオン分析器の開発

概  要:

 火星衛星の近接観測は多数の国によって積み上げられているが、小惑星捕獲か巨大衝突かで割れる衛星起源論を判定できるデータは、いまだに得られていない。起源判定にはリモートセンシング観測のみでは限界があるので、形成時からの衛星固有物質を地球に持ち帰り、精密分析することができるサンプルリターン探査は不可欠である。 MMXは火星の2衛星PhobosとDeimosの近接観測・測定を実施するとともに、形成時から衛星を構成する固有物質をPhobos表層から採取し、その試料を地上分析することで、Phobosの起源を明らかにするとともにDeimosの起源にも制約を与え、火星衛星の起源を総合的に判断することができる。今回のセミナーではこれまでの火星探査と、MMX・MSAの概要、今後の予定について発表する。

発表者名: 室田 雄太

発表内容: ミューオンビームを用いた隕石中の微量元素分析

概  要:

 現在、大阪大学核物理研究センターにあるミューオンビーム発生装置「MuSIC」を用いて、隕石に含まれる1wt.%以上の元素を非破壊で三次元的に分析することが可能になっている。本研究では、装置開発によって0.1wt.%程度の微量元素まで分析することを目指す。装置開発と前回行った実験の概要について報告を行う。

発表者名: 蓮中 亮太

発表内容: 磁場勾配による強磁性粒子の分離と識別

概  要:

 宇宙・地球科学分野では,鉱物粒子の組成分析が重要な研究手段の一つである.最近の研究により、常磁性体、反磁性体の磁場による分離・同定の手法が確立されつつある。本研究では、これまでは対象外だった強磁性体に関して、飽和磁化の違いを利用した物質同定を目指す。この目的のため、単一の微小粒子の磁化測定を、新たな手法により実現する。今回の発表では装置開発と試料作製の進捗報告と、本実験の関連論文を紹介する。

発表者名: 藤本 駿

発表内容: 二次中性粒子質量イメージングシステムの開発

概  要:

 隕石の年代や起源を調べるうえで、二次イオン質量分析計(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometer)を用いた局所同位体分析は欠かすことができない分析手法である。SIMSは微小領域の分析手法として広く用いられているが、イオン化効率が低いため、試料のロスに対して感度が低いという問題が存在するをこのような問題を解決するために我々のグループでは、スパッタされた中性粒子をフェムト秒レーザーでポストイオン化する二次中性粒子質量分析計(SNMS:Secondary Neutral Mass Spectrometer)の開発を行っている。

現在の分析では、任意の位置にイオンビームを照射し、レーザーによるイオン化、質量分析計への引き込み、質量分離、イオン信号の検出という一連の操作を繰り返し、ある一点における質量スペクトルを取得している。均質な物質を測定する場合、この分析方法で十分であったが、同位体的に不均一な物質を測る場合、点ではなく面による分析が有効である。そのため、イオンビームを走査し、一点一点の座標におけるスペクトルを取得する、質量イメージングシステムの構築を検討している。今回のセミナーでは、SNMSによるラインスキャンと空間分解能評価を行ったのでその結果を発表する。

発表者名: 新述 隆太

発表内容: 月極域における水分子同位体比測定装置の開発

概  要:

 近年リモートセンシング技術の発達などにより月極域には一定量の水が存在することが示唆されているが、その存在量や起源は定かではなく、月面でのその場観測によってのみこの問題は解決する。 質量分析計を用いた同位体分析法では、水分子同位体を測定する際に生じる同重体を質量分離するために非常に高い質量分解能を要するので、大型の質量分析計が必要となり、宇宙機搭載が困難である。この点において光学分析法が有利である。分子ごとによって吸収波長がわずかに異なることを利用し、測定物質の数密度決定や同位体分析を行う手法である。

 今回は新水蒸気キャビティ、旧キャビティそれぞれを使った吸収スペクトル測定の結果とそれぞれの問題点、解決方法を発表する。

発表者名: 前薗 大聖

発表内容: 火成岩の圧力誘起電流の温度依存性-巨大地震先行的電離圏擾乱の機構解明に向けて-

概  要:

 巨大地震に関連する電磁気現象として電離圏異常が2011年東北地方太平洋沖地震以降指摘されている。この現象のメカニズムには、地中岩石の応力誘起電荷による電離圏の電場の形成が考えられる。このシナリオとして、①地震発生直前に震源核が形成され、断層が壊れ始める。②岩石に強い応力がかかり過酸化架橋構造が活性化し、その時生じた正孔が周辺へと拡散していく。③その電荷による電場が、震源上電離圏に誘導電場を作る。④この誘導電場と地球磁場の作用によって電離圏電子が移動し、震源上空電離圏に正の電子密度異常が生じると考えている。過酸化架橋構造の活性化によって電離圏異常を説明できるか考察するために、卒業研究では、斑レイ岩を一軸圧縮したときに流れる電流の温度依存性を調べた。試料の斑レイ岩3×6×10cmに5MPaを加え、各温度での電流の大きさを調べた結果、20℃では数pAであった圧力誘起電流が120℃では50pAと10倍程度増えることが分かった。また、指数関数上に乗っていることから、半導体のような熱活性化が考えられる。今回の発表では、この巨大地震先行現象について近年の研究で明らかになったこと、今後の研究の予定について発表する。

発表者名: 松崎 太郎

発表内容: GEONETを用いたTEC異常の解析

概  要:

 大地震の先行現象として、地震発生の直前約40〜50分前に震源上空の電離圏において総電子数(TEC)の異常が発生していることが、1994年から2017年までのM8以上の11以上の地震で報告されている (Heki,2011) 。一般にTECの異常は、主に磁気嵐や大規模伝搬性電離圏擾乱(LSTID)など、太陽活動を起源としていることが多いが、地震の直前に見られるTEC異常は、震源上空に固定される局所的なものであり、全地球的に影響を及ぼす宇宙起源のTEC異常やLSTIDとは区別することができる。さらに2011年に発生した東北沖太平洋地震では、震源の磁気共役点である北部オーストラリアで、同時にTEC異常が発生したことが確認されており(Heki, 2018)、これらの観測結果から一連の現象は地震に先行する電磁気現象であると考えられる。

 これらの現象を説明し得る一つの仮説として、震央付近で臨界的な圧力が加わることによって、地殻中にマクロスケールな電気分極が発生し、分極による誘導電場と地球磁場によって電離層に電気的影響を与えていることが考えられる。卒業研究では、応力印加による分極現象における正孔の移動・拡散による寄与を調べるために、絶縁体であることが知られている高純度のMgOセラミックスを用い、最大10MPaの一軸圧縮と下で応力誘起電流値の変動を室温下で計測し、ケイ酸塩鉱物と同様に、数ピコアンペア程度の応力誘起電流を観測できた。

 現在は研究テーマを変更し、国土地理院のGEONET(GNSS連続観測システム)が提供する電子基準点観測データの解析から、電離圏におけるTEC異常が太陽活動期及び静穏期に地震と関係なく起こる頻度を求めることを予定している。当セミナーでは、地震前TEC異常に関する先行研究を紹介し、今後の研究の方針、課題を発表する。

発表者名: 渡邊 宏海

発表内容: ルナ16号試料L1613のキャラクタリゼーション

概  要:

 月の進化を議論する上で、月試料は重要である。月のレゴリスは、月面に見られる微細な粒及び粉末の混合物であり、数十億年にわたる連続的な隕石の衝突によって引き起こされた、玄武岩と斜長岩の機械的な崩壊の結果であると考えられている。そのため、レゴリスの年代学においては、個々の粒が異なる起源を有することが考慮されるべきである。

 本研究では、Mare Foecunditatiから回収されたルナ16号試料L1613、約1500粒のレゴリス試料について、SEM-EDSを用いて元素マッピングを行ない、さらにリン酸塩鉱物と輝石に対して定量分析を行うことで、個々の粒子の起源を同定した。その結果、このフラクションの多くはLow-Ti玄武岩起源であり、わずかに斜長岩質起源成分が混ざっていることが明らかになった。また、見つかったリン酸鉱物に対してNanoSIMSを用いた局所分析を行い、U-Pb年代を求めた。その結果、結晶化年代が44億年と36億年の粒があることが分かった。今回の発表では、ルナ16号試料L1613のキャラクタリゼーションの結果と、U-Pb年代測定の結果について報告する。

発表者名: 山口 若奈

発表内容: 磁気並進運動を用いた揮発性固体の分離・識別装置の開発

概  要:

 我々の身の回りにある多くの物質は、各々固有の反磁性磁化率を有している。先行研究では、小型の永久磁石を用いて磁気並進運動をさせることで、異なる粒子の集合体を磁化率ごとに分離・識別できることが示されている。この実験は、これまで室温条件のみで行われてきたが、自然界では地球上の寒冷地や外惑星領域などのように、揮発性固体が多数を占める領域が多い。また、一般に外惑星領域の固体相は、揮発性固体とシリケートを端成分とした混合物であると考えられる。これらの領域で、固体物質の存在比を計測し、また、個々の粒子の質量比を簡単に識別する新たな手段として上記の方法が利用できないかと考え、その可能性を探るための装置開発を行っている。今回、進捗報告として、①2成分粒子(ドライアイスと黒鉛の混合粒子)の並進運動の観測、②真空有無の実験の比較、③固体エタン粒子の作成を報告する予定である。

発表者名: 諸本 成海

発表内容: ルナ24号サンプルの起源とルナ20号サンプルの鉱物学的特徴

概  要:

 月の進化について議論をするうえで、月隕石やアポロ計画・ルナ計画によるサンプルは重要な研究対象の一つである。現在はロシアが過去に打ち上げた無人月探査機「ルナ」が持ち帰ったサンプルの研究を行っており、ルナ24号サンプルに関しては、特徴的な主成分組成や年代値を示した粒子の起源について新たな知見を得た。またルナ20号が採取したレゴリスに対しては新たなサンプルを作製し、粒子全体の鉱物学的な特徴や年代分析に適した鉱物の有無を調べている。今回の発表では、これらルナサンプルに対する分析結果や考察について報告する。

発表者名: 村山 純平

発表内容: 月面水探査に向けた半導体レーザー分光計CRDS(Cavity Ring-Down Spectroscopy)の開発

概  要:

 現在、様々な探査でのセンシング測定により、月面における自由水の存在が明らかになりつつある。しかし、その厳密な量、供給源等の詳細な情報を得るためにはその場分析にて水の同位対比を厳密に調べる必要があり、宇宙機にも搭載できるような小型・高感度の同位体測定装置が必要となる。半導体レーザーを用いた吸光分光計であるCRDSは、高反射ミラーを用いたレーザー光の共振を利用することで1m以内と小型ながら数kmの有効光路長を得ることができ、同位体測定に耐えうる高い感度を実現できる。ただし、この装置を月面水同位体測定での仕様に耐えうるものにするためには、光学配置や測定方法の工夫が必要である。

 本研究では、それらの課題を克服するための基礎として、実験室的環境下でのCRDS装置の開発を行っている。当セミナーではその試行錯誤の現状と課題を報告させていただく予定である。

発表者名: 山中 千博

発表内容: Computer simulation of Heki-TEC disturbance

概  要:

 TEC (total electron content) disturbance in ionosphere before a large earthquake (Heki-TEC disturbance, Heki, 2011) is a surprising finding caused a lot of controversial claims. Heki-TEC requires a prompt propagation of influence about 40 min, therefore, most likely mechanism is the electromagnetic effect between lithosphere and ionosphere but not some kinds of chemical diffusion process. Charge separation at seismic (nucleation) zone is one of the interpretable models and we have performed computer simulation with a NEC SX-ACE3.

発表者名: 蓮中 亮太

発表内容: 磁場勾配による強磁性粒子の分離と識別

概  要:

 宇宙・地球科学分野では,鉱物粒子の組成分析が重要な研究手段の一つである.最近の研究により、常磁性体、反磁性体の磁場による分離・同定の手法が確立されつつある。本研究では、これまでは対象外だった強磁性体に関して、飽和磁化の違いを利用した物質同定を目指す。この目的のため、単一の微小粒子の磁化測定を、新たな手法により実現する。今回の発表では、磁場勾配を用いた強磁性体の分離識別の先行研究を紹介し、新たに開発する装置の概要を報告する。さらに、過去の研究で実績があるFreeze-Thaw法を用いて、Allende隕石を単一粒子に分解する作業を進めており、その進捗状況についても報告する。

発表者名: 藤本 駿

発表内容: 二次中性粒子質量イメージングシステムの構築

概  要:

 隕石の年代分析や起源を調べるうえで、二次イオン質量分析計(SIMS: Secondary Ion Mass Spectrometer)を用いた局所同位体分析は欠かすことのできない分析手法である。SIMSは微小領域の分析手法として広く用いられているが、イオン化効率が低いため、試料のロスに対して感度が低いという問題が存在する。このような問題を解決するため、我々のグループでは、スパッタされた中性粒子をフェムト秒レーザーでポストイオン化する二次中性粒子質量分析計(SNMS: Secondary Neutral Mass Spectrometer)の開発を行っている。

 現在の分析では、任意の位置にイオンビームを照射し、レーザーによるイオン化、質量分析計への引き込み、質量分離、イオン信号の検出という一連の操作を繰り返し、ある一点における質量スペクトルを取得している。均質な物質を測定する場合、この分析方法で十分であったが、同位体的に不均一な物質を測る場合、点ではなく面による分析が有効である。そのため、イオンビームを走査し、一点一点の座標におけるスペクトルを取得する、質量イメージングシステムの構築を検討している。今回のセミナーでは、システムの根幹である電圧出力部の動作確認とSNMSによるラインスキャンを行ったのでその結果を報告する。

発表者名: 新述 隆太

発表内容: 月極域における水分子同位体比測定装置の開発

概  要:

 近年リモートセンシング技術の発達などにより月極域には一定量の水が存在することが示唆されているが、その存在量や起源は定かではなく、月面でのその場観測によってのみこの問題は解決する。 質量分析計を用いた同位体分析法では、水分子同位体を測定する際に生じる同重体を質量分離するために非常に高い質量分解能を要するので、大型の質量分析計が必要となり、宇宙機搭載が困難である。この点において光学分析法が有利である。分子ごとによって吸収波長がわずかに異なることを利用し、測定物質の数密度決定や同位体分析を行う手法である。今回の発表では水の回収法、用いる光学分析装置の説明をし、実験の進捗を報告する。

発表者名: 渡邊 宏海

発表内容: ルナ16号試料L1613のキャラクタリゼーション

概  要:

 月の進化を議論する上で、月試料は重要である。月のレゴリスは、月面に見られる微細な粒及び粉末の混合物であり、数十億年にわたる連続的な隕石の衝突によって引き起こされた、玄武岩と斜長岩の機械的な崩壊の結果であると考えられている。そのため、レゴリスの年代学においては、個々の粒が異なる起源を有することが考慮されるべきである。本研究では、 Mare Foecunditatiから回収されたルナ16号試料L1613、約1500粒のレゴリス試料について、SEM-EDSのSpectral imaging機能を用いて元素マッピングを行なった。さらにリン酸塩鉱物と輝石に対してPoint&Shoot機能を用いて定量分析を行い、個々の粒子の起源を同定した。その結果、このフラクションの多くはLow-Ti玄武岩起源であり、わずかに斜長岩質起源成分が混ざっていることが明らかになった。今回の発表では、ルナ16号試料L1613のキャラクタリゼーションの結果と、U-Pb年代測定の計画について報告する。

発表者名: 前薗 大聖

発表内容: 火成岩の圧力誘起電流の温度依存性 -巨大地震先行的電離層異常のメカニズム解明に向けて-

概  要:

 地震に先行する電磁気的現象として、電離層における電子密度(TEC)の異常が報告されている(Heki,2011)。この原因として、震央付近の地殻に表れるマクロな電気分極が考えられ、その分極メカニズムは、石英が関与する圧電補償電荷説、過酸化架橋の正孔励起説、間隙水の移動による流動電位説などが提唱されている。正孔励起説(Freund,2006)は、火成岩の圧縮によって、鉱物中の酸素過剰欠陥部分に正孔が励起し、濃度拡散で移動する説であり、継続時間の長い電磁気異常や地電位差異常を説明できる点で注目されている。この正孔濃度は、温度を上げると増えることが予想される。卒業研究では、3×6×10cmの斑レイ岩を120℃まで加熱し、約5MPaを加え、岩石両端間の電流を測定することで正孔励起による電流を調べた。結果として、圧縮中に流れる電流は、常温のとき数pAだったが120℃では50pAと、10倍程度増える傾向が見られた。今回のセミナーでは、前回の発表からの進捗状況、今後の課題を報告する。

発表者名: 松崎 太郎

発表内容: MgOセラミックスにおける圧力誘起電荷の熱・吸水率依存性と地震前予兆現象への関与の研究

概  要:

 大地震の先行現象として、地震発生の直前約40〜50分前に震源上空の電離圏において総電子数(TEC)の異常が発生していることが、1994年から2017年までのM8以上の11以上の地震で報告されている(Heki,2011)。TECの異常は主に磁気嵐や大規模移動性擾乱などの太陽活動を起源としているが、地震の直前に見られたTEC異常は震源上空を中心とした局所的なものであり、全地球的に異常を及ぼす宇宙起源のTEC異常とは区別することができる。また、2011年に発生した東北沖太平洋地震では、震源の磁気共役点であるオーストラリアのダーウィン近傍でも同時にTEC異常が確認されており、これらの観測結果から一連の現象は地震に先行する電磁気現象であると考えることができる。 これらの現象を説明し得る一つの仮説として、震央付近で臨界的な圧力が加わることによって、地殻中にマクロスケールな電気分極が発生し、分極による誘導電場と地球磁場によって電離層に電気的影響を与えていることが考えられている。

 地殻中において圧力に誘起され分極するという現象のメカニズムとして、石英が関与する圧電分極補償説(Ikeya,1997)や、水が関与する流動電位説(Mizutani,1976)、正孔励起による正孔移動説(Freund,2006)などが挙げられており、中でも正孔励起による正孔移動説は、MgOやSiO2結晶構造中に普遍的に見られる過酸化架橋構造が過熱や冷却、強力な応力印加によって正孔を形成・拡散する説であり、地震発生までの約40〜50分間の間継続的に電荷を溜め続けることが説明できうる点で注目されている。

 本研究では、応力印加による分極現象における正孔の移動・拡散による寄与を調べるために、絶縁体であることが知られている高純度のMgOセラミックスを用い、室温下での最大10MPaの一軸圧縮とともに電流値の変動を計測した。最後に、これらの実験から得られた電流値を実際の地殻スケールで概算し、地殻中の分極による電離層への影響をシミュレーションした先行研究(2016,Yamanaka)との比較を行い、実験で得られた電流値と地震前のTEC異常に有意性があるのかどうかを議論した。

発表者名: 山口 若奈

発表内容: 磁気並進運動を用いた揮発性固体の分離・識別装置の開発

概  要:

 我々の身の回りにある多くの物質は、各々固有の反磁性磁化率を有している。先行研究では、小型のネオジム永久磁石を用いて、異なる粒子の集合体を並進運動させることでそれらを磁化率ごとに分離・識別できることが、微小重力環境を利用して示されている。この実験は、これまで室温条件のみで行われてきたが、自然界では、地球上の寒冷地や外惑星領域などのように揮発性固体が多数を占める領域が多い。これらの領域で固体物質の存在比を計測する新たな手段として上記の磁気分離の原理が利用できないかと考え、その可能性を探るために装置開発を行っている。今回、これまでの研究を2つ(①装置の改良と混合粒子の分離(卒業研究の内容)、②2成分粒子の磁化率測定(昨年の惑星科学会の内容))紹介し、進捗報告として、さらに装置の改良を進めたのでそれを報告する。また、未解決の問題の原因を追究しているので、それも報告する。

発表者名: 諸本 成海

発表内容: 月試料のU-Pb年代分析 - 月隕石NWA2977の年代情報の再考察

概  要:

 月の進化について議論をするうえで、アポロ計画・ルナ計画によるサンプルや月隕石は重要な研究対象の一つである。これまでの研究では、結晶化年代及び変成年代の2つの年代情報と、サンプルのマグマソース起源に関する情報のμ値(238U/204Pb)を得ることのできるU-Pb法を用いることで、月隕石やルナ試料の火成史・衝突史を明らかにしようと試みてきた。卒業研究の内容(月隕石NWA2977の年代学的考察)に関しては、ペア隕石とされるNWA773のデータも用いるなどして再解析を行い、年代情報やμ値に関して異なる知見を得た。今回の発表ではこれらの解析の結果のほか、これまで行ってきた研究内容や今後の展望について紹介する。

発表者名: 村山 純平

発表内容: 月面水探査に向けた半導体レーザー分光計CRDS (Cavity Ring-Down Spectroscopy) の開発

概  要:

 現在、様々な探査でのセンシング測定により、月面における自由水の存在が明らかになりつつある。しかし、その厳密な量、供給源等の詳細な情報を得るためにはその場分析にて水の同位対比を厳密に調べる必要があり、宇宙機にも搭載できるような小型・高感度の同位体測定装置が必要となる。半導体レーザーを用いた吸光分光計であるCRDSは、高反射ミラーを用いたレーザー光の共振を利用することで1m以内と小型ながら数kmの有効光路長を得ることができ、同位体測定に耐えうる高い感度を実現できる。ただし、温度や圧力などの環境の変化や光軸のずれに敏感であるという短所もある。

本研究では、それらの問題を克服するための基礎として、実験室的環境下でのCRDS装置の開発を行っている。当セミナーではその試行錯誤の現状と課題を報告させていただく予定である。

発表者名: 植田 千秋

発表内容: 非晶質シリカの磁気異方性と星間ダスト整列

概  要:

 星間の磁場構造はダストの部分整列による偏光で推定され、その観測データは、恒星や惑星の形成に宇宙磁場がおよぼす作用を解明する根拠となっている。しかし非晶質の弱磁性体である星間ダストが、微弱な宇宙の磁場で整列する原因については、現在も議論が続いている。近年、溶融状態からの急冷で生成したシリカ(SiO2)の表面領域には、星間の主要シリケート鉱物に匹敵する磁気異方性が発生することが明らかとなった。さらに鉄イオンが無視できる高純度シリカ(Fe~0.2ppm)を伸張させて生成したファイバーからも、有意の反磁性異方性が検出された。これらの測定結果に基づき、ダストが磁化の異方性によって整列する可能性について検討する。

発表者名: 久好 圭治

発表内容: 微小重力発生装置から重力可変装置へ

概  要:

 一般に物質の磁気的性質は、反磁性、常磁性および自発磁化による磁性に大別して説明される。反磁性は全ての物質に発現するが、その磁化は自発磁化と比べ数桁以上も小さい。しかし、微小重力中に開放した固体粒子は、その内部に誘導される磁気的エネルギーのため、永久磁石レベルの低磁場で、並進や回転を引き起こす。この磁気力による並進運動や回転振動を利用した新しい磁化測定法を提案してきた。この測定法には微小重力環境が不可欠で、繰り返し実験を行うために室内型の微小重力発生装置を開発してきた。この装置の開発の経緯と微小重力実験施設や装置を紹介する。また、この装置の発展型として、アトウッドの滑車を利用した重力可変装置の開発について報告する。

発表者名: 寺田 健太郎

発表内容: ミュオン特性X線分析法の開発 〜地球惑星試料分析の実用化にむけて〜

概  要:

 負電荷をもったミュオンビーム分析の最大の特徴は、測定試料内でミュオンが重い電子として振舞うことである。そのためミュオンは電子よりも原子核に近い軌道を周回し、結果として、EPMAのような電子プローブ分析に比べ、約200倍のエネルギーをもつ特性X線を発生する。また入射ミュオンの運動量を制御する事で、特性X線を発生させる位置(すなわち、試料表面からの貫入の深さ)を制御できることから、物質内部の化学組成を軽元素から重元素まで非破壊で分析することが可能となる。さらに特筆すべき点は、ミュオン特性X線が、「同位体情報」や「化学状態」という地球惑星化学において重要な情報をも、非破壊で我々に与えうる点である。当日は、我々が取り組んでいるミュオン特性X線分析の現状と今後の展望についてご紹介したい。

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