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太陽系の起源と進化

同位体宇宙化学

惑星進化の普遍性と特殊性

太陽系46億年の歴史において、天体と天体の衝突による惑星物質の角礫化は頻繁に起こったイベントであり、特に太陽系初期の、塵→微惑星→原始惑星への進化のステージでは、衝突・合体プロセスと、衝突・破砕プロセスが、同時進行していたと考えられます。

このような太陽系創世期に存在した微惑星の進化の情報は、度重なる衝突・破砕過程のため、多種混合角礫岩中のミリサイズ以下のクラストの形で存在していることがわかっています。

微細な鉱物組織に含まれる元素の同位体比から、その鉱物、ひいては母体となる隕石や岩石の年代を求める手法を、局所同位体分析法といいます。

私たちは、高感度・高分解能イオンマイクロプローブ (Secondary Ion Mass Spectrometer: SIMS) を用い、リン酸塩鉱物の局所ウラン (U)-鉛 (Pb) 年代分析に取り組んできました。リン酸塩鉱物は天然資料に広く産出する比較的閉鎖温度が高いウランに富んだ鉱物であるため、従来の地球の火成岩/堆積岩のみならず、微化石や種々の隕石の絶対年代分析が可能です。

さらに、238U, 235Uの2種類のU壊変系列を利用する3次元アイソクロン法を導入することで、従来困難であった結晶化年代と変成年代 (インパクト年代) を独立に同時に導くことも可能になりました。

これによりこれまで年代分析が困難とされてきた「月の角礫岩」や、LL3-6コンドライト隕石Adzhi-Bogdo中に存在する花崗岩質クラストの局所年代分析に成功しました。

これまでベールに包まれていた多種混合角礫岩の年代情報を局所絶対年代分析法で明らかにすることで、太陽系の未知の進化プロセスの発見を目指しています。

関連する論文 ( Terada, K. et al., Nature (2007) )

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月と地球の共進化

「月」に吹く「地球からの風」

地球は、地球磁場によって太陽風や宇宙線から守られています。太陽と反対方向 (夜側) では、地球磁場は彗星の尾のように引き延ばされ、その中央部には熱いプラズマがシート状に存在している領域があります。私たちはJAXA, 名古屋大学との共同研究で、月周回衛星「かぐや」に搭載されたプラズマ観測装置PACEが取得した月面上空100kmのプラズマデータを解析し、月と「かぐや」がプラズマシートを横切る場合にのみ、高エネルギーの酸素イオン (O+) が現れることを発見しました。これまで、地球の極域から酸素イオンが宇宙空間に漏れ出ていることは知られていましたが、地球の大気が「地球風」として、38万km離れた月面まで運ばれていることを、世界で初めて観測的に明らかにしました。

酸素には 16O、17O、18Oという3つの同位体が存在しますが、これまで、アポロ計画で採取された月表土の表面層 (深さ数十〜数百nm) には、月本来の酸素同位体比を示す成分以外に、16Oだけが少ない成分と、16Oだけが多い成分の、同位体比の異なる3つの成分があることが指摘されていました。多い成分に関しては、2011年に太陽風の酸素イオンが月面に貫入していることで説明されましたが、少ない成分の起源についてはよく分かっていませんでした。今回「かぐや」によって観測された1-10keVという高いエネルギーをもつO+イオンは、金属粒子の深さ数十nmまで貫入することが可能です。地球のオゾン層の酸素同位体比は16Oが少ないことが分かっており、今回の結果は、地球大気と月表土とを結びつける観測的な証拠として非常に重要な知見となります。

約45億年前に形成されたと考えられている月は、地球環境を「力学的」に安定させることで、生命の誕生・進化に大きく寄与してきました。地球大気が月まで到達していたという今回の結果は、地球の生命活動が遠く離れた月に直接影響を与えていること、すなわち、月-地球システムが、数十億年にわたって「力学的」だけでなく「化学的」にも影響を及ぼしあい「共進化」していることを明らかにしました。

記者発表(2017年1月31日)

関連する論文 ( Terada, K. et al., Nature Astronomy (2017) )

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磁性科学で惑星の形成過程を探る

銀河内の様々な空間では,非晶質の星間ダストが微弱な星間磁場の作用で整列していることが知られています。この整列は、固体の磁気現象としては最も普遍的な事例であり、磁性物理で取り組むべき課題の一つです。しかし宇宙空間や地球上に存在する固体は、ほとんどが反磁性体または弱い常磁性体であり、現在、それらの磁気特性の理解は進んでいません。 磁性 このため星間ダストがなぜ整列するのかも分かっていません。私たちは、磁性イオンを含まない物質であっても、低磁場で整列する事を他に先駆けて見出しました。さらに磁性科学の手法を用いて、整列の原因である反磁性異方性の起源の解明を進めています。[詳細①へ]

星間磁場は、恒星や惑星の形成を制御する重要な要素とされ、非晶質ダストの整列によって生じる偏光を観測することにより、星形成領域の磁場構造が明らかにされてきました。原始太陽系のダスト円盤についても、同様にその偏光を観測することで、磁場構造の検証が進むと期待されます。そこで私達は、これらの領域に存在し、異方性を持たないとされる非晶質粒子が、低磁場で整列することを実験的に示す研究を進めています。[詳細②へ]

磁場による星間ダスト整列

一方、反磁性粒子を微小重力環境におくと、磁気力によって顕著な並進運動が引き起こされることを見出しました。この磁気並進運動によって、惑星進化に伴う元素分化を説明できるのではないかと考え、それを検証するための実験を進めています。[詳細③へ]

以上のように私たちは、地上の環境で見落されていた反磁性の基本特性を明らかにする研究を進めており、さらにその成果に基づいて、惑星科学の未解決問題に取組んでいます。

記者発表(2016年12月18日)

関連する論文 ( Hisayoshi, K. et al., Sci. Rep. (2016) )

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