Terada Lab. ホーム > 研究内容 > 次世代に向けた新しい分析法の開発
負ミュオン (μ-粒子)は、電荷-e、質量が電子の約200倍の不安定素粒子です。ミュオンはその質量の大きさから、物質のより深い領域まで到達でき、ミュオンを取り込んだ元素から発生する特性X線は、高い物質透過能力を持ちます。
私たちは、ミュオンビームを用い、隕石試料の化学組成を非破壊で分析する新しいX線エネルギー分析法の開発を進めています。
大強度陽子加速器施設J-PARCのミュオン装置群MUSE (MUon Science Establishment) のパルスミュオンビームを用いた実験では、化学組成の異なる4層からなる試料の深度分布分析、地球外有機物を含む隕石である炭素質コンドライトの深さ70μmからの炭素ピークの検出に成功しました。さらに、はやぶさ2などのサンプルリターンミッションで回収されると予測される微量試料の非破壊元素分析を想定した実験では、ガラスチューブに封入した隕石粉末からMgとFeのピークの検出に成功しています。
太陽系創世期に存在した微惑星の進化の情報は、度重なる衝突・破砕過程のため、多種混合角礫岩中のミリサイズ以下のクラストの形で存在していることがわかっています。これまで、そのような微細な組織の分析は、2次イオン質量分析計 (Secondary Ion Mass Spectrometry: SIMS) を用いて行われてきました。しかしながらSIMSは、試料のイオン化効率が数%以下と低く、1μm以下の極微少試料の分析は非常に困難でした。
私たちは、理学研究科の質量分析グループと共同で、イオンビームによってたたき出された試料を、高出力レーザーによってポストイオン化する2次中性粒子質量分析装置 (Secondary Neutral Mass Spectrometry: SNMS) の開発を行っています。 これまでのSIMSにおいて、イオン化されず中性粒子として失われていた試料の大部分を100%イオン化し、1μm以下の空間分解能で局所同位体分析を実現することを目指しています。
最近、電離層から大気圏、地殻の広い範囲 (Lithosphere-Atomosphere-Ionosphere: LAI Coupling) で地震に先行する電磁気現象が観測されています。特に、それに伴い電離層電子に異常が引き起こされる現象は電離層TEC(Total Electron Content)異常として広く知られています。
電磁気現象の発生には、電気分極を発生させるメカニズムが必要です。たとえば、地殻内の圧電効果や流動電位、positive hole伝導などがその原因として考えられています。岩石試料に応力を加える室内実験や、地震波、電離層観測データを用いた解析の他、大規模計算機を用いた分極シミュレーションも行っています。また広範な地震前兆現象の記録や解析に強い関心があります。